冬、君との距離

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 平日3時間パック学割で2,700円、つまりは割り勘で一日一人900円で練習できるスタジオが学校のすぐ側にあったとは!  百瀬くんたちのバンドがよく使う場所で、顔見知り価格にしてくれてるらしく激安なのだ。  スタジオの中にはドラムが鎮座してあって、久しぶりの対面に何だか懐かしさがこみ上げる。  そういえばアオイくん家のドラムに初めて触れた時も久しぶりで、こんな感じだったっけ、とチューニングしながら思い出す。  今日の課題曲はNa na na、もう二度と叩くことはないと思っていた曲。  辞める宣言から半年足らずでのドラム一時復帰に。 「は?」  今朝路面電車で一緒になった周は私の話を聞いて。  機嫌悪そうに眉間に皺を寄せていた。 「何でだよ!」  何でTAM's辞めた癖にまたドラムやるんだよ、が多分周の何でだよ! に詰まってる。  めちゃくちゃ怒ってる……。   「……クラスで決まっちゃって」 「断れよ、拓海も拓海だよ」  飛び火は加瀬くんにまで。 「でも、ホラ、3月頭の一年生お別れ会が終われば解散のバンドだし」 「でなきゃ腹立つ、大体こっちはまだオマエが抜けた穴決まってねえしな?」 なのにオマエは何で全然違う、いや拓海と新しいバンド組んでるんだ?! と激怒りの周にはもう平謝りするしかない。  何も言えない、ごめんなさい、と何度も謝った。  でも周よりも、気がかりなのは。  昨夜メッセージでアオイくんにそれを伝えたところ、すぐに既読がついた。  だけど返事は一時間後。  しかもニッコリスタンプ、のみ。  え? 賛成? でいいのよね?  ドキドキしてどう返信しようかと思ってると、次に来たのはオヤスミスタンプ。  学校では会えず仕舞いで今に至るのだ。 「イケそう?」  一通りチューニングを終えた私を振り返る加瀬くんに頷いた。  今日持ってきたのはあの夏の日に買った黒い方のスティック。  さすがに加瀬くんから貰った水色のはもう持ってこれなかった、というのに。  加瀬くんは私がプレゼントしたピック入れを使っててくれていて、次は私も持ってきてもいいかな、と何だかホッとした。 「んじゃ、よろしく~! 片山さん」  いつもはアオイくんが立つ位地にいる百瀬くんによろしくと頭を下げて。  どうかまだ身体が覚えてますように、と祈るような気持ちで心配そうに見ている加瀬くんに頷いた。
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