冬、君との距離

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 練習終りに、二人と並んで帰りながら今日の反省点をあげていく。  六割は叩けた、けど後四割は不十分。  練習していけば多分大丈夫、かもしれない。  多分だよ、多分! 絶対とは言い切れるほどの自信がまだ沸かない。  鈍った腕はついてくのに必死の状態だということ、一緒に練習した二人とも今の私の状況はよくわかってくれたようだ。 「ちょっと簡単にアレンジしよっか」  加瀬くんの気づかいには首を横に振った。  三人でやるNa na naのギター編曲でも難しいのに加瀬くんはしっかりと作りこんできていて百瀬くんも耳コピで何とかついてきていて、なのに一度やったことのある私が出来ないってのは何だか情けなくて。  あの曲のドラム部分の編曲を任されたのは自分だし、アオイくんも一緒に考えてくれたものだもの。 「今のままやってみたい、できれば」 「ん、じゃあ信じる」  加瀬くんのその言葉と笑顔に強く頷いた。  駅前でバス帰りの二人と別れて電停まで歩く途中で、メッセージを確認した。  あっ! 待っていたそれに思わず反応してしまう。 今来た道を慌てて走って引き返して駅前にあるハンバーガーショップ、一番最初に四人で最初に話したあの店だ。  二階の奥にアオイくんは座ってて私を見つけると手を振ってくれた。  その笑顔がいつも通りだったので心の底から安堵して駆け寄ると。 「お疲れ、海音ちゃん」 「アオイくん、お疲れ様っ!」 「何か食べる?」 「ん、ちょっとお腹空いたね」  時計はもう十八時半、お母さんにちょっと遅くなる連絡を入れてアオイくんとバーガーセットを注文した。  あの時私が見たメッセージにはアオイくんから『練習終わってこれに気づいたら駅前のバーガーショップで待ってるね~!』と。  気付かないで帰ってたらどうなってたろう。  気付けて良かった。 「どうだった? 久々のドラム」  向かい合って食べているとそう切り出されて。 「……ブランクがキツかったかも」  正直な感想を述べると、そっかと苦笑して、そして。 「ごめんね、オレ昨日、変なスタンプ送った」  不意打ちされたそれにハンバーガーを喉に詰まらせかけてジュースで流し込む。 「今朝ね、周に会って話したんだけどね」 「うん、周今日一日中機嫌悪かった、ずっと海音ちゃんと拓海の文句言ってたわ」  ああ、やはりか……。  アオイくんの表情からは冗談っぽく言ってるからきっと周は大丈夫、だと思うんだけど、大事なのは。 「アオイくんは、その……どう思ってるのかな、って、私がまたドラムやるの」  あのスタンプじゃアオイくんがどう思ったのかなんてわかんなくて、不安、だった。
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