冬、君との距離

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「正直な話、してもいい?」  真剣な顔をしたアオイくんに頷いた。 「ドラムをやるのは賛成、で……、拓海と組むのは何だかつまんない」 「……、えっと」 「ちっちゃいよね、ホント。ただのヤキモチです」  アオイくんが? 「んで、誤魔化して意味不明なスタンプ送ってから後悔してた」  バカだよね、って笑うアオイくんに首を横に振る。 「アオイくん、あの、ね。アオイくんが思うようなそういうのはないの」  アオイくんがヤキモチを妬いたというのが、加瀬くんとのことならば。  ここ二日少し加瀬くんと話せるようになってから気付いてる。  空間的距離は縮まってもあの頃のように心の距離までは縮まないんだってこと。  それは加瀬くんからなのか私からなのかわからないけれど、見えない壁があること、私からも加瀬くんからもそれは今後も越えられない。  だから、片山さん、だし。  私も前のようには、加瀬くんと話せなくなっている。  どこかお互いに遠慮がちだ。  河本さんがいることだって理解しているし。  今はただの期間限定のバンド仲間だとお互いに割り切ってる状態だから。 「だから、ああいうのは嫌だなって」 「ああいうの?」 「ん、スタンプ? ……アオイくん、何考えてるんだろう? もう話せなくなっちゃったらどうしようって」  アオイくんが何を考えているのかが不安だった。  周のようにわかりやすく怒られてる方がまだいい。  それは周との付き合いが長いせいなのかもしれないけれど。  いつも優しいアオイくんに急に突き放されたら、相当落ち込んでしまうから。 「ごめん、海音ちゃん」  伸びてきたアオイくんの指が私の目尻を撫でた瞬間、自分が涙目になってたんだということに気づく。 「ああ、やだ、オレ。ホント何やってんだろ、海音ちゃん泣かすなんて最低だわ」  はあああって大きなため息ついて。 「ちゃんと応援してるから、海音ちゃんがドラムやってる姿楽しみだし。拓海にももう妬いたりしない」  よしよしと私の頭を撫でて、それからいつものアオイくんの笑顔で。 「海音ちゃんがオレのこと考えて不安になったってのは、ちょっと嬉しいしね」 「えっ?」 「少しはオレのこと考えてくれてる?」  微笑まれて恥ずかしさのあまり聞こえないふりでジュースを飲む。  多分真っ赤になってるから気づかれちゃってるだろうけど。 「アオイくん、あのね日曜日家にいるかな?」 「いる、一日中いる!!」  日曜日が何の日か気づいたアオイくんはめちゃくちゃ笑顔になってくれて。 「遊びに行ってもいい?」  私の問いに何度も頷いて喜んでくれた。
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