冬、君との距離

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 百瀬くんがいなくなり急に静まり返ってしまって、さて何を話したらいいのだろうか、と。  地雷を落として回収されないままのそれを踏まないように細心の注意を払う。  お互いに多分模索してるんじゃないかな、無難に練習のこととか、そういうのを。  ふと感じる視線に加瀬くんを見たらやっぱりこっちを見ていて。 「あの、さ」 「ふぁっ」  口にオムライス含んだまま間抜けな返事をしてしまい慌ててそれを飲み込んだ。 「なに?」  嫌な予感がする、だって加瀬くんの顔は真剣だったし。  ああ、絶対聞かれるんだろうな。 「アオイと付き合ってる?」  ホラ、きたっ!! 私だけが必死に違う話題を探していたのかと、ガッカリする。 「付き合ってません」  何で百瀬くんと同じこと聞くの?  さっき私付き合ってないって言ったのに。  ちょっとムッとしたので私もさっきの加瀬くんの発言を聞き返すことにした。 「何で河本さんと付き合ってないの?」  ド直球な質問に加瀬くんは相当驚いて声も出ない様子、だったけど。 「……片山さんには関係ないでしょ」  瞬間に不機嫌そうな顔をして言い放ったのはそんな返事。  ……、何だろう、とっても腹が立つ言い草な気がする。 「……、ですね、私には関係なかったです、すみませんでした」  私の顔は今思い切りぶすくされていることだろう。  私の顔や言い方の棘を感じたのか、ハッとしたように。 「違う、関係ないってのはそういうことじゃなくて……、ごめん、今はまだうまく言えないけど、」 「別にいいよ、もう聞かない。ごめんね」  せっかく加瀬くんが謝ってくれたのに、私はどんどん腹が立ってきて。  片山さんには関係ないって言葉。  関係ない、って何よ、だったら。 「加瀬くんにも関係ないよね?」 「え?」 「アオイくんとどうとか、関係ないでしょ」  あれ、まずい、私ちょっとおかしい、これ以上言わない方がいいのに。   「関係ない人間の話なんか加瀬くんは興味ないでしょ」  ああ、言ってしまった、最悪だ。  加瀬くんは下を向いて困ったように言葉を探してて、そして。  顔をあげて私を見た。 「……あるよ、アオイは親友だし、片山さんは……大事な、仲間だし」  自分の手元に置いてあるテーブルの上でスマホが鳴ってる、アオイくんだ。  その表示に気づいたのか加瀬くんは。 「出ないの?」  促してくれるけど、今アオイくんと話したらきっと私泣き出しちゃう。 「知ってると思うけど、アオイはすっごいイイヤツで」 「……そんなのもういっぱい知ってる、アオイくんが優しくてあったかい人だってことも。でもそれ加瀬くんが言わないで欲しいんだ」  財布から千円札を出してテーブルに置いた。 「ごめんなさい、今日は帰る」  立ち上がった私の手を引き留める強い力。 「アオイなら絶対海音のこと大事にしてくれるから」  振り絞るようなその声に耳を塞いでしまいたくなって。  思い切りその手を振り切って走り出した。
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