春の自分

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日が長くなっているとはいえ、3月下旬では午後6時をすぎた頃はまだ薄暗い。向こうの空には鈍い光を仄めかした月が浮かんでおり、今日1日がようやく終わったことを再実感する。 それにしても今日も疲れた。勉強に部活、そう、部活だ。 俺の所属する野球部はそれなりに運動量が多い。弱小であるためか、近隣校に比べては多くはないが、腐っても野球部として練習はしている。 とはいっても試合に勝つことより皆で楽しもう、といういかにもな理由をつけてグダグダと練習しているため、俺たちの代で強くなることはまずない。強くないため練習試合は負け続き。 辛くはない。 しかし楽しいかと聞かれると何も言えないのが現状である。 ーーまあ、こんなもんか。 俺はどこか諦めにも似た気持ちを持つことに慣れてしまったようだ。 ーー走るのは疲れるから、早歩きで帰ろう。 ぼんやりとそう思い、ただひたすらに足を動かす。 しかし、カンカンカンカンと言う踏切の音に遮られ、それ以上俺は前に進めなくなってしまった。 そういえば電車の時刻表が変更されていた。 せっかく人が身体を動かそうと言う時に、何故この踏切のポールはさがってくるのか。まあ電車が来たからなのだが。 俺は若干の苛立ちから、目の前のポールを軽く蹴った。 そこでふと、気づいた。 ポールの向こう、正しくは踏切の向こう岸。 女の子が立っていた。長い髪の。 服装は薄青のワンピース。加えて裸足。 「ゆ……ゆう」 れい、と最後まで言わなかった俺を褒めて欲しい。 よく見れば足はすけてないし、影もある。多分生きた人間である。 まったく紛らわしい。 やけに俯いていて、雰囲気が鬱々……というか、暗い。 もしかしたら家庭の事情とやらで家出の可能性もある。 声をかけてもいいが、俺は無視することにした。下手なことに巻き込まれたくもなければ、これから家でくつろぐ時間を削られても困る。知人だったらなんとかしただろう。が、何かあってもどうせ他人であるなら、バチは当たらない。 好奇心から不躾に女の子を見てれば、当の本人が顔を上げた。 やっば。 向こうはこっちが不躾に見ていたことなど気づいてはいないはずだが、気まずくて視線を逸らそうとした。 逸らそうと、したのだ。 「っ!?」 言葉が詰まったのも無理はない。 白いを通り越した青白い肌、大振りな目、小さく収まった鼻……。聞けばそれなりの可愛さと評していい。 問題はその造形にあった。 なんたってこちらを静かに見つめてくるその顔は―― 俺、そのものだったのだから。
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