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「それってドッペルゲンガーってやつじゃね?」
翌朝の学校でもう1人の俺らしき人物の話をすれば、友人の一人がそう返してきた。
確かに瓜二つの人間という点を除けば1番の有力候補だろう。
しかし待て。
「そんだったら俺はとっくに死んでるだろー?」
たしかドッペルゲンガーというのは、もう1人の自分に会ったら自分だけが死ぬのではなかっただろうか。同じ人間が2人いるなんてそりゃあ世間的にも恐ろしいし、偽物を消さない限り本物の安全はないとも聞いたことがある。言ってしまえば自分という枠に2人も入れないということだ。
ならばこうしてぴんぴん過ごしている俺がいるなら、その可能性は限りなく低い。もう一方の俺がいるなら俺自身は抹消されててもおかしくはないのだ。
友人はニヤニヤと俺の顔を見つめてくる。
「いーやわかんないぞ。なんせオカルトだっていっても外国には実際にあったらしいし?」
「いや、絶対そっくりさんだって。……それに、俺が死んだら宿題困るのは誰だ?」
「はーい、俺でーす!」
下卑た笑い声を上げて右手を出したそいつに、俺はいつも通りノートを取り出す。
「さんきゅぅー!今日も助かるよ本当に」
「毎度よくやるよ。真面目にやんないと内申点下がるんじゃないの?」
「へーきへーき」
絶対に後で後悔しまくりだとは思うが、受験の時に泣きを見るのはどうせ本人なのだから、まあ構わないか。
雑にノートを手渡そうとした。
「あれ?」
「わわっ、ナイスキャッチじゃね俺?とりまありがと!すぐ写して返すから」
手渡そうとしたノートは俺の手をすり抜けるように床に落ちそうになった。が、友人がタイミング良く手に取ったため床に投げ出されることはなかったが。
ーー手、力入んなかった?
右手を開いて、握って、また開く。
特に痛みは感じないし、動きに支障もない。
まるで力が抜け落ちたように一瞬右手に違和感があったのだ。
「筋肉痛か?どっかぶつけたかな」
ともかく今は何ともないから大丈夫だろう。
ひとまず俺は机の中から1限目の教科書を取り出し、授業の準備をすることにした。
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