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線路を構築する鉄と鉄の間に自転車の車輪がつまり、横転する。俺の体は投げ出され、やや後方に弾き飛ばされた。地面に叩きつけられ、肺から空気が全て吐き出され苦しい。
「げほっ、ごふっ。たくっ、なん、なんだよ痛てぇな!」
痛みをどこかに逃させたくて、誰に対するものでもない悪態をつく。背中がじんわりと熱を持っており、相当 きつく地面と衝突してしまったようだった。
ぼやけた目を拭いつつ、体を起こす。
ぼやけてはいるが、カンカンと赤の警告の光が瞬いているのは理解出来ていた。
「……やっば、轢かれる!」
慌てて立ち上がろうとすると再度地面に体を投げ出すこととなった。
「……え、あれ」
あの、脱力感だった。
右手、右足だけでなく、左足にも感じた。
踏切のポールは下がり終わっており、トンネルの向こうから電車の前頭についているライトの光が漏れているのが見えた。
「おいおいおい!しゃれになんねぇ!」
自分が木っ端微塵となるビジョンが浮かび上がり、背筋に熱ではなく冷たさを感じた。
転がってでも抜け出さなければそうなる未来しかない。
身体を捻って脱出しようとするが、うつ伏せから仰向けになると上半身全体がゴムのかたまりのようにぐにゃりと崩れた。
ーーこんなの筋肉痛なんかじゃないぞ!
明らかにおかしい。しかしその理由を考えている時間すら惜しかった。
ふと警告灯の横に佇む少女が目に入った。
この際家出少女でも非行少女でもなんでも構わない。
「あ、あんた助けてくれ!動けないんだ!早く!!」
少女は何も答えない。虚の目で俺をただ見つめている。
「見殺しにする気かよ!いいからここから助けてくれよ!」
少女は答えない。
「何でもするから!」
ピクリ、少女の頬が動く。
赤が点滅する。
「……ほんとに?」
「何でもいいから早く!!」
轟音の様な車輪の音はもう目前だ。
なりふり構ってはいられない。
赤が点滅する。
轟音の先端は既に俺の体を飲み込もうとする。
ーーもうダメだ!!
死への恐怖と圧迫、絶望と酷く冷えた熱に包まれる。
俺は目を閉じることは出来なかった。
「じゃあーー」
少女の口が動くのを最後に身体が引き裂かれる感触、暗い世界が視界いっぱいに広がる。
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