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翌日、晴れ渡る空のもと卒業式が執り行われた。
ーーさあ、僕ら羽ばたくよ
あの青い空へ 白い雲をはらって
こぼれる涙 春風でふいて
咲くやこの花 うたを胸に抱いて
卒業生の全体合唱では泣いている生徒がチラホラいた。式で泣くガラじゃないけれど、なんだか胸に穴が空いた気がするのはなぜだろう。
咲くやこの花……
あの声をもう一度聞きたいなと思った。春の空に澄み渡るような歌声ーー
あの声ってなんだっけ……
「じゃーん、オレが整列させましたー!」
「……はあ?」
感傷に浸るまもなく、大地が俺に向かって声を上げた。すすり泣く在校生たちがなぜか廊下に一列に並んでいる。しかも女子ばっかり。
「ただ今より蓮先輩の第二ボタン争奪戦です! 告白に成功した女の子は遠慮なくもぎ取ってね!」
「は? バカなこと言ってんじゃ……」
俺が大地を責める間もなく「先輩、ずっと好きでした!」と後輩たちによる告白合戦が始まった。顔面蒼白になる俺のそばで、ばあちゃんが「あらまあ、うちの孫がねえ」と素っ頓狂な声を上げる。
制服を引きつかまれている俺を横目で見ながら、陽葵が「モテ男は大変だねー」と他人ごとのように通り過ぎていった。
「おいっ……助けてくれたっていいだろ!」
「蓮を助ける義理なんかありませーん」
あっかんべーをすると胸に花をつけた卒業生たちとはしゃぎながら行ってしまった。
「大地! 責任取ってなんとかしろ……」
引きちぎられそうな第二ボタンを死守するかたわらで、大地は別の後輩に告白されていた。
デレる顔を見たとたん何もかもがバカバカしくなって俺は逃げ出した。
意地になって走って、ぶら下がった第二ボタンを手のひらにおさめた。これを誰かにやろうと思ってた。それが誰だったのか思い出せなかった。
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