21人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
最後の奉仕。
田村幸助、今年で29を迎えた俺は20代最後の年を迎える。
そしてこの年、俺は転機も迎える事になるのだ。その転機とは、俺と長年付き合っていた彼女と結婚するために知り合いの経営する小さな老人ホームに就職する事になったのだ。
というのも、結婚するからにはフリーターのままじゃ世間は許してくれない。
いや、世間だけでなく、身内すらも納得してくれないだろう。故に、遅かれながら老人ホームに就職して彼女との安定を選んだのだ。
またこの老人ホームは大手ではなく、小さいながらも行政の反応も良く評判も良いらしいのだ。
知り合いが社長である事からも、俺の頑張り次第で会社に貢献する事が出来れば、この会社も先は明るく、俺自身の未来もまた明るい。
そう思って、この老人ホームに就職したのだ――だが、いやはや、そんな大きな志なんてどこへやら。
じいちゃんばあちゃんが好きでもなく、ましてや奉仕活動が好きな訳でもない俺はすぐに仕事が嫌になってしまった。
介護というのを、簡単に考えすぎていたのだ。
四六時中、利用者であるじいちゃんばあちゃんを見守り、時間になってはご飯やお風呂、トイレに至るまで付きっきり。
もちろん、自分のことは自分で出来る人もいるにはいるが……俺が担当していたフロアは重度の利用者しかいない。
その為、付きっきりというのはただ後ろを付いていけば良い訳ではなくて、食事やお風呂やトイレ、その全てが介助が必要という訳なのだ。
舐めてた。完全に、俺は舐めてた。
最初のコメントを投稿しよう!