異世界へようこそ。

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 彼女は、はっきりと答えた。そうか、それだけ知れたのなら悔いはない。悔いは……ない?いや、ないなんて言えるのか?  だって俺には彼女がいるし、友達だって、両親にお別れの挨拶すらしていない。  あ、そうか。そうだよな、だから自由なのか。大切な人には、もう会えない。会えないからこその……自由。  それ、良いことなのか?だって俺の心はこんなに、こんなにも……涙が流れる。  彼女は厳しい人だったと思う。でもそれも、俺が愚痴を溢す度に気丈に振る舞っていただけかもしれない。  この年になるまで安定していなかった俺だ。叱咤激励という訳ではないが、彼女なりの優しさだったかもしれない。  そうだとしたら……あぁ。いやだな、こんな別れ方嫌だな。こんな事になると分かっていたのなら、もっと楽しい話を毎日しておけば良かった。  父さん母さんにも親孝行出来ていないし……働いた金で旅行にでも連れて行ってあげたかった。  友達とかとも飲みにも行けなくなるのか。バカみたいに騒いで、楽しかったあの時間には戻れないんだな。  そうか、そうかぁ……そんなんだったら、「自由、なんていらないなぁ」  顔を両手で覆い、その場で踞った。現実を知ると俺は、嗚咽を漏らして泣くことしか出来なかった。 「うぅ……あああぁぁぁぁあ……っ!」  暫く女性は俺の背を擦り、隣にいてくれた。あまりの苦しさ激しさに、生まれて初めて過呼吸になり掛けた。心を締め付けられるような、鷲掴みにされているような、そんな感覚に陥った。  だが俺は、独りではなかった。女性が傍を離れたなかったからだ。辛くはあったが、孤独ではなかったお陰か、俺の呼吸は狂い壊れる事はなかった。
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