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旅立ちの前に。
「……なぜ、俺をこの世界に呼んだのですか?」
回復したとは言えないが、幾分落ち着いてきた俺は女性に気になる事を訊くことにした。その問い対して、優しい声音。彼女は俺の背を擦り続けながら説明をしてくれた。
「あなたは癒しを求めていた。あなたのその感情、魂は穢れたままで終わる訳にはいかないと判断した。本当なら地球で生まれたあなたをどうこうする訳にはいかなかったけれど、あなたが救った彼女は……私にとって特別だったから」
「特別?……彼女って誰のことですか?」
すぐ後ろにいる女性へと視線を向けるが、彼女は何処か寂しそうだ。
「あなたが助けてくれた高齢の女性よ……彼女はね、元は私と同じ存在だったの」
その言葉に俺は思惟する。高齢の女性という言葉を聞いて、誰が特別なのかは理解した。したのだが、同じ存在とはどういう事なのだろうか?
そもそも、この女性がなんなのか俺は聞いていない。そう、訊いていないのだ。
「あなたは、なんなのですか……? さっきは金の斧と銀の斧の女神役を演じてくれた訳でしたが、まさか本当に女神さまなのですか?少なくとも人ではない、ですよね? 湖の中でも呼吸が出来ていたみたいだし、水の上にも立てていたようだった。俺と同じ人では……貴女はいったい?」
首だけでなく、身を翻す俺は身体を完全に彼女へと向けた。それに対して彼女もまた、視線を反らさず変わらぬ優しい声音で応えてくれた。
「私は魔神、女神なんて高貴な存在ではないわ」
「……まじん? まじんって悪魔の魔に、神の神、ですか?」
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