旅立ちの前に。

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 その問いに、彼女は首を降る。  魔神、魔神か……その名前からは禍々しい悪しき者を感じるが、彼女からは優しい雰囲気が感じられており、魔神なんて者を名乗られても(にわか)には信じ難い。 「魔神、魔神ですか……では、老人ホームにいた利用者。いえ、三條(さんじょう)さんの前世もまた、魔神なのですか?」  その問いに、女性は真剣な面持ちで答える。「長くなるわ」と。 ー  俺の働いていた老人ホーム。そこで俺は命を落とした。自身の不注意から一人の利用者である女性、三條高子(さんじょうたかこ)さんを危険な目に合わせ、それを事前に防いだ結果だ。  冷静になって考えれば俺の失態であり、自業自得ともいえる結末なのだが……目の前にいるこの女性、ララクリル・ララステラキアート・ラストールパラダイン・ラリラロンルリランサザンダー・ティファニーアンドレアス……うん。  ちょっとフルネームが長すぎるので、申し訳ないがララと省略させてもらおう。  ララは、俺にそんな三條さんを身を削って助けようとしてくれた事に感謝を抱いているという……「いや、そんな風に思う必要はないんです。何よりあの事故は俺が原因なのですから」と訂正するが、ララは語った。  利用者であるあの女性、その前世は魔神ウィルウェルソルクバーノ・シュタルクダーククリアランス・タンダークアセロア・ミラージュベローナ・ミランダマリマリーゼ……って、三條さんの名前もこれまた長い。  なので申し訳ないが、地球に転生した三條さんの名前のまま呼ばせてもらおう。  ララと三條さん。彼女達は以前、この世界で百年戦争――またの名を、魔災大戦と呼ばれる戦渦を過ごしたという。
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