異世界へようこそ。

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 しかし、なんて綺麗な湖なのだろうか?透き通るような水とはまさにこの事、都会ではまずお目にかかる事がないだろう幻想的で神秘的な自然の……あ。  そんな自然の美しさに目を見張っていたのだが、この湖の水があまりにも透き通る物だから先ほどの女性が湖の底より浮かび上がっているところが見てとれた。  再び女性はぼこぼこという音を奏で、湖の底から現れると……今度は両手に何か持っている。  まるで価値ある美術品のような美しい装飾が入った――「あなたが落としたのは、金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」  ん、うん?俺は心の中でその言葉と、女性が手に持つ斧を一瞥しながら考える。  この話、聞き覚えがある。だが、聞き覚えはあるが今の若い子達は知らないだろうな。  俺の年齢でもギリギリな年代だと思う。 「あれ? またわたし、間違った?」  女性は困惑気味だ。いや、その反応はどちらかというと俺がしたいのだが……おろおろと手にした斧をどうしたものかと狼狽えている女性を前にして、逆に冷静さを取り戻していく俺はふとある事に気付く。   『そうか、俺はきっと夢を見ているのだな?』  普通に考えればあり得ぬ話だ。さっきまで俺は老人ホームにいて仕事をしていたというのに、目を覚ましたらこんな大自然の中にいる。  こんなもの、夢以外に考えられない。  現状に戸惑っていた俺だが、ここが夢という答えに至ると完全に落ち着きを取り戻した。  俺の答えを待っているだろう女性は、依然としておろおろと不安な表情でいる。仕方ない、ここは一つこの茶番に付き合ってあげる事にしよう。  俺は一歩前へと進み、女性を見据え返答した。 「いいえ、俺はなにも落としていません」  その答えを前に、女性は嬉々とした笑みを見せると話の続きを進めていく。 「そうですか!……あなたは正直者ですね。では、この斧を全て差し上げましょう!」
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