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湖の上に佇む女性は喜色満面の笑みを浮かべ、両の手に持つ美しい装飾が入った金と銀の斧を差し出す。ここは夢の世界と意識する事で、このあり得ぬ光景も可愛いものだと思った俺の足は湖に向かって……フガガ、ブガ。
は?苦しいんだが!?
湖は一歩入るだけで底が抜け落ちたように俺の身体を沈ませた。
水の中へとドボンッ!という豪快な音を奏で、俺は無我夢中で這い上がろうとした。
泳ぎは久しくしていないからか、不器用な犬かきを披露して何とか陸地に舞い戻れた訳なのだが……は?どういうこと??
夢だと意識していた思考は、突然の苦しさに困惑する。当然だ、夢の中の筈なら苦しい訳がないのだから。
「あらあら、水の上を歩けないのですか?人間というのは不便な者ですねぇ」
水の上を歩けない?人間とは不便?何を言っているんだコイツは?
水を大量に飲んだせいか咳き込み、喘ぐ俺は息を必死に整える。整え、落ち着きを取り戻すと水の上に佇む女性を一瞥しながら疑問を訴えた。
「すみません。……ここは夢の中ではないのですか?」
その俺の質問に女性は「あぁ」と声を漏らし、判然と答えた。
「違いますよ。ここは剣と魔法と自然の大世界。あなたが住んでいた地球とは異なる世界です!」
「……はい?」
「あなたの身体は地球で滅びました。ですが、その精神と魂は健在であったので、私がこの世界にお招きしたのです!」
『意味が分からない。つまり、どういうこと……?』
女性の話す意味を何一つ理解できなかった俺は、その場で呆然と立ち竦んだ。
それは両手を広げて斧を湖に落とし、一大スペクタクルを嘯いた女性が、我に戻るまで俺の思考は停止したのだ。
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