異世界へようこそ。

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 女性を引き留めようとして、再び湖に足を踏み出し――フガガ、ブガ。  またまた湖の中へと落ちてしまったのだ。焦っていたとはいえ、学習しないにも程がある。  口を閉めず、空気を吸わずに湖へと落ちたため息はすぐに苦しくなる。  必死に踠いて、不得意な泳ぎ、不格好な犬かきで陸地へ戻ろうとするそんな俺に女性は気付いてくれた。  気付き、水の中で息を求める俺の腰に手を回すと……一気に加速する!  バシャーン!と激しい水飛沫をあげて、女性の導きにより湖の上に飛び出すことに成功した。 「ちょっと、大丈夫?」  大量の水を飲んでしまった為か、先ほど以上に咳き込む俺の背を女性は優しく撫でてくれている。  徐々に呼吸が戻り始めて、俺は彼女に感謝の言葉と共に質問をする。  その初めの質問を受け、女性は目を丸くした。 「ばあちゃんは、ばあちゃんは無事ですか?俺、老人ホームで働いていて、ばあちゃんをベランダから引き上げようとしたんです。俺は死んでしまったみたいだけど、ばあちゃんが無事なら……まだ救われる。仕事最近やる気なくて、プライベートもほんとダメダメな感じだったけど、最後に人を助けられたのなら救われるので……だからもし知っているのなら、教えてくれませんか?」  俺の懸命な言葉に目を丸くして驚いていた女性だったが、彼女は嫣然たる笑みを見せた。 「大丈夫。 彼女は無事よ。あなたの死に大勢の人々が哀しんだけれど、それと同じくらいに彼女を助けた貴方を皆は讃えているわ」 「そうですか、それは、よかった……」  ばあちゃんは無事だった。それだけ聞ければ十分な筈だが、無事と聞くと今度は知人には悪いことをしたと懊悩する。
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