ボクを捨てたのは

「ボクは産まれてすぐに捨てられていたらしい。なのでボクは母親の顔もボクを捨てた人物の顔も知らない。少し前までは『一体ボクの何がダメで捨てられたのか…。』とか『ボクを捨てた人は心が痛まなかったのだろうか？』などということばかりを考えていた。だが今はそんな事はどうでもいいと思えるようになって来た。ボクも大人になったと言う事だと思う。
そしてボクは今の暮らしには満足している。食事は自動的にボクの好きな物が出て来るので、心配いらない。どうやらここの装置がそうなるように設定されていて、ボクがお腹を空かして死なないようになっているようだ。トイレもキレイで、専用の機械がいつも掃除していて清潔な状態を維持している。このシステムによってボクはここでストレス無く過ごす事が出来ている。別室にはボクが退屈しないための仕掛けやオモチャがどっさり用意されていて、ボクが一生かけても全てで遊び尽くす事は不可能だと思う。
そんな訳でボクはこの十年間ずっと一人だが別に寂しくは無い。物心ついた時にはすでに一人でここにいて、下手に肉親とか友達がいない分そう言った感情が抑えられているのだと思う。だから今は別にボクを捨てた人の事を恨んだりもしていないし、悲しくもない。今日も、そして明日からもこの小さな宇宙漂流カプセルの中で過ごしていくのだ。この生活がこれからもずっと続くだけなのだ…。」

※宇宙ネコ…先天的にその瞳に“宇宙”を宿したネコ。見た目や生態は普通のネコと何も変わらず、ごく稀に野良猫や家猫から産まれてくる。原因は一切分かっておらず、突如として誕生するが、何匹かの兄弟の内の一匹だけ誕生し、一回の出産で多頭が産まれた事や一匹の親猫が複数を出産した例は今のところ報告されていない。
問題はその最期で、この猫が命をまっとうするとその瞳の宇宙は縮小し、そのエネルギーが一点に集中することによって莫大な重力を生む。そしてそれはブラックホールとなり、周囲の星と空間を飲み込んでしまう。
この性質によって消滅した惑星が数多存在すると言われてえて、この性質から宇宙ネコが誕生した惑星では発見されるとすぐに宇宙空間に破棄される事がほとんどであるが、稀にテロリストやゲリラに悪用されるケースがある。
なお、この宇宙に存在するブラックホールは全てこの猫が由来とする説が現在有力である。