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施設には愛子の希望もあり見学に行った。
自然豊かな中の施設で一人部屋もあり、良い環境だった。
何かあれば直ぐに隣接した病院から、医者が来る事も魅力だったが、夫婦で入居は出来なかった。
それでも愛子が強く望むので、施設の人が薦めてくれた、ショートステイ、実験的なお泊まりをする事になった。
一泊二日の愛子がいない生活に、子供達からは短いけどしたい事をして、と言われた。
何をしたらいいか、拓巳には全く思い付かず、今、愛子がどうしているかそればかり考えて落ち着かない時間を過ごした。
次の日に迎えに行くと、愛子の自分を見るホッとした表情を見て嬉しくなった。
愛子も寂しかったに違いないと思えたからだった。
職員の人に話を聞くと、部屋に籠ったまま、ゲームにも参加せずにずっと一人でいたらしい。
職員が愛子に理由を聞くと、
「これからずっと一人だから慣れないと…。」
と話したそうだ。
それを聞いて、施設は辞めないか?と拓巳は帰宅後に話しをした。
忘れてもいいから、何度も話した。
その度に愛子はうんうんと頷き、同じ事を口にした。
「一緒にいてくれる?本当にいい?」
誰よりも不安なのは愛子で、辛いのは愛子だと思うと拓巳は泣きながら微笑んで返事をしていた。
「当たり前だろ?ここは愛子の家だぞ。おれは…愛子の夫っす…。」
言葉が詰まって出て来なかった。
そうして優一達も納得の上で、交代で前よりも頻繁に顔を出してくれる様になり、幸いな事に人格が変わるとか、暴力を振るうという事もなく、愛子は穏やかで笑顔で過ごしてくれていた。
時々起こすパニックは、子供に戻った様で可愛らしく見えたし、大丈夫だよ、と言うと落ち着いてくれていた。
「誠一さん、大変!お茶碗割れたの。」
「ああ、危ないよ?俺やるから…愛子、こっちにおいで。大丈夫だよ。」
「ごめんなさい。誠一さんのお茶碗…。」
「大丈夫。怪我してない?」
「うん。」
「ならいいよ。」
愛子はまるで小さな子供に戻っているかの様だった。
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