2年ぶり

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変わらない生活を続けていたある日、目が覚めると愛子がいなかった。 驚いてクローゼットを開けて見るが、そこにもいなかった。 寝室を開けてリビングに出るといい匂いがした。 包丁の音がして愛子が台所に立っていた。 (久し振りの光景だな。) 少し見惚れていると愛子が気付いて振り返った。 「おはよう!拓巳さん。」 「おはよう、愛子。今日は早起きだね?調子は…………。」 椅子を引いた手が停止した。 「あい…こ?」 目が愛子の後ろ姿を凝視する。 「ん?なぁに、拓巳さん?どうしたの?座って?」 拓巳の目からボロボロと大粒の涙が流れた。 「えっ?ちょっと、どうしたの、拓巳さん。涙腺の故障ですか?」 笑顔で愛子はタオルを取りに寝室に行く。 (戻って来たら、元に戻っているんだ。) そう考えて期待しない様にした。 それでも、二回呼ばれた…それだけで嬉しかった。 だけど、この奇跡はまだ続いていた。 「はい、どうしたの?大丈夫?」 タオルを渡されて謝りながら拭く。 「ごめん、朝ご飯何かな?」 「拓巳さんの好きなわかめと大根のお味噌汁に、卵焼き。後は残り物。」 冷蔵庫を開けて残り物を出しながら笑う。 「俺の好きな?」 「あれ?好きでしょ?わかめと大根。」 不思議顔で言われて、拓巳はまた涙を流した。 「嘘、泣く程嫌いだったの?」 「ち、違う!好きだ、好きだよ。」 「なら良かった。」 笑いながらコンロの方を向き、お味噌汁を注いでいた。
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