2年ぶり

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声を聞きながら慌ててリビングに入って来る。 梅雨明けの季節だから、風通しにリビングのドアは開けっ放しになっていた。 「今、お母さんが言った?」 「お母さんじゃないなら他の女性がいるわね?相変わらず騒々しいわねぇ?」 くすくす笑いながら愛実を見つめる愛子に、愛実の涙腺が緩んでいた。 ここ2年程はこんなに気持ちよく会話がポンポンと帰って来る事はなく、少しぼーっとしている事もあり、返事はゆったりだったからだ。 「お、お母さん覚えてないだろうけど、私、5日前に来てるからね!」 「あら?正確な数字が出たわね。覚えてないわねぇ?あ、拓巳さんこれ美味しいわよ?いい出来です。」 二人を笑顔で見ながら、愛子の声に反応する。 「お、どれ、いただきます。……うん!これはいい味付けだね。」 「ですよね?上手に出来ましたね。常備菜になってますからね。」 その様子に愛実はまた泣く。 「た、拓巳ちち、お母さんが…。」 「うん、嘘じゃなかっただろう?座って。少しでも食べないか?」 「た、べる。お母さん!食べていい?」 「駄目でも食べるでしょ?お箸とお皿、自分で用意してね?」 「うん、うん!」 半泣きの顔で、愛実は台所へ入り、愛子の後ろで目を擦りながら、茶碗伏せからお茶碗を出す後ろ姿を拓巳は見つめていた。 愛子の隣に座り、愛実は愛子が作った常備菜を摘む。 「美味しい。お母さん、本当に美味しい。」 「そう?帰りに少し持って行く?冷凍庫もいっぱいだから持って行くといいわ。」 「うん、お母さん、ありがとう助かります。」 拓巳を見て、愛実の目が本当に昔の愛子だと言っていた。
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