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優一が5時過ぎに、秀一が6時過ぎに訪れた。
ダイニングテーブルに座り話し込む優一を、リビングに入って来た秀一が見た。
「兄さん!一週間振り?」
「だな?変わりないか?」
「うん。兄さんのとこは?」
「変わりない。詩織が明日顔を出すって言ってた位かな?」
「うちも言ってた。仕事あるから今日は無理で、明日なら丁度休みだからって…。」
二人で会話をしながら、秀一はソファに座っていた拓巳に軽く会釈して、ダイニングテーブルの優一の隣の椅子を引いた。
「あら、じゃあお昼過ぎに来てもらうように言ってくれる?どうせならお仕事終わったら二人ともいらっしゃいよ。お夕飯、お母さん腕を奮うわよ?明日ね、拓巳さんが美容室に連れて行ってくれるから、帰りに買い物して来るわ。詩織さんにも咲子さんにもそう伝えておいて。」
スラスラと話す愛子に秀一は呆然として、拓巳と優一の顔を交互に見た。
「はい。お茶。麦茶でいいでしょ?あ、秀一も常備菜持って行く?優一にも持たせる準備してたとこなの。それともお夕飯食べて行く?」
お茶を置かれて、まだ呆然とした顔で秀一は愛子の顔をジッと見た。
「母さん、こんなに沢山、作ったの?一度に?」
「そうよ?冷凍も優一が持っていくから、秀一もいる?あ、拓巳さん、そろそろご飯にしましょうか?」
「うん?準備は終わった?ゆっくりでいいよ?」
ソファから拓巳の声がして、秀一は目の前の光景を信じられずにキョロキョロしていた。
会話はできていた。
今までもちゃんと出来ていた。
ただ、返答は遅かった。
質問の内容にもよるが、予定に関しては返答が遅かった。
仕方がない事でじっくり待つ事が日常になっていた。
こんなにポンポンと軽快に、流暢に言葉が出て、準備も手早く出来ている母は三年位振りな気がした。
何よりも驚いたのは、父を「拓巳さん」と呼んでいた事だった。
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