最後の団欒

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わいわいと食事をして、懐かしい話をする。 誠一の写真もソファのテーブルの上に置いて参加させる。 詳しい事情を知らないお嫁さんの咲子や孫たちには、寝室入り口の壁の上にある二つの離婚届が不思議な存在感らしかった。 愛子は笑顔で二枚の離婚届をこう話す。 「一枚目は決意の表れ。それと脅しかな?二度目はないわよ、躊躇せず離婚するからね、ていうね?二枚目は拓巳さんの好きにしていいのよ、っていう免罪符みたいな物かな?いつでも自由になっていい、私は十分幸せだから…ていう意味かな?」 流暢に出て来る言葉に今までを見て来た優一達はやはり、戸惑い、驚きながらも嬉しく微笑んで聞いていた。 「離婚が良い事か悪い事かは分からないけど、最初の離婚はお母さんにとっては必要だった。それだけは確かよ。」 微笑む愛子は綺麗だった。 食後に優一と愛実が引っ張り出して来たアルバムをみんなで見て、笑ったり文句言ったり、泣いたり怒ったりしながら懐かしい写真を順に見た。 楽しい家族団欒はあっという間に過ぎて、愛子がお開きを告げる。 「さぁ、明日も仕事でしょ?帰って寝なさい。」 パン!と手を叩いて言うとシン、とした静寂が流れた。 「何よ?ご不満?」 膨れっ面の愛子が言い、みんなが笑う。 「母さんの口癖だね?」 「そうだね、久し振りに聞いた。母さん、俺ね?やっぱりここへ帰って来ようと思うんだ。二人では広いだろ?玄関近くの三部屋は使ってないよね?咲子もそうしてと言うし、共働きだから逆に迷惑を掛けるかもしれないけど、賑やかになるよ。駄目かな?生活費とかいらないし、二人の分も面倒見るから家賃は勘弁って事で。」 秀一が言うと優一も愛実も聞いていた話の様で反対はなかった。 「帰って来たいならそれでも良いけど、急ぐ事はない。秀一と咲子さんの良いタイミングですれば良いよ。」 「そうね。急ぐ事はないわ。お母さんには拓巳さんがいるから心配要らないから、ちゃんと考えて落ち着いて引っ越したらいいわ。学校とか仕事とか忙しいでしょうしね。」 拓巳と愛子が言うと、反対されると考えていた秀一は笑顔を見せる。 「じゃあ、良いんだね?ありがとう、お父さん、お母さん。家族で相談して決めるよ。」 秀一は笑顔で咲子と顔を見合わせて安堵していた。
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