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子供達を見送り、愛子にコーヒーを淹れた。
「良い香り…優しい味。」
と香りを嗅いでから口に含んだ。
「疲れただろ?あんなに沢山、料理を作って…。」
「ううん、楽しかったわね?あ…置いたままだわ。」
ソファのテーブルの下に置いてあった、多分、愛実が片付け忘れたアルバムを愛子は出してテーブルの上に置いた。
秀一の結婚式の日に二人で見た。
それ以来見ていなかった。
拓巳が初めてアルバムを見たのは、愛子と籍を入れた後だった。
自分の知らない愛子が沢山いた。
「みんな幸せそうで…。」
「今日」を振り返り、愛子が呟く。
カップを手にして、残りが少ない事に気付くと、全部を飲んで寂しそうにカップを置いた。
その様子を見ながら、アルバムをまだ見ていたいのだと考えて、拓巳は声をかける。
「おかわり、入れようか?ジュースにする?今日買ったコーラがあるよ。コーラにしよう。」
空のカップを手に言うと、愛子が笑顔で言う。
「ううん、コーヒーがいいわ。拓巳さんのコーヒーがいい。」
手にしたカップを置いて、放すと拓巳は愛子の正面に膝を突いて座る。
「あのさ…今まで聞かなかったけど、お互い歳だし…この年齢で無理は良くないと思うし、聞くね?」
「なぁに?」
真面目な表情の拓巳に対して愛子は微笑む。
「愛子さ…本当はあんまり、その…コーヒー、好きじゃないだろ?」
長く一緒にいて気付いた事のひとつだった。
ずっと言わずに聞かずにいた事だった。
「ばれてた?いつから気付いてた?」
ふふっと、悪戯っ子の様な顔をする。
やっぱり、と拓巳は体の力が抜けた。
「元々苦手だったの。でもコーヒー豆輸入会社に就職しようとしてるのに、苦手で飲んだ事ないとは言えないから、パートで入ってから毎日帰りに飲んでたわ。誠一さんも気付いてなかったと思うのに、良く分かったわね?いつから?」
「愛子が退職した頃かな。買って来るコーヒー豆はモカかキリマンジェロ、ブルマンは絶対に買って来なかった。好みかな値段かなって思ったけど、苦いのは嫌なんだろ?」
「当たり!」
と微笑んで愛子は返した。
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