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「絶対とは言いませんけど…女心には鈍いのね、相変わらず…。」
席を立ち、拓巳の茶碗を取り流しで洗い始める。
それを見て拓巳も残ったキムチや梅干しを冷蔵庫にしまった。
「怖いな…女、怖い。」
ブツブツと呟いている。
「必死なのよ。振り向いてほしくて…」
水を止めて愛子が振り向いて言うと、真面目な顔で返す。
「いや。マジで怖いっす!結婚してるのに、40超えてんのに…あの二人30前ですよ?不倫希望っすか?ないない、あり得ないっす!」
動揺すると言葉が戻るから、愛子はくすくすと笑った。
「不倫希望だなんて言わないであげて。分からないけど、分からないからこそ、拓巳さんに言われたら本気で好きだったら哀しいと思う。本気で告白されたら本気答えてあげて?」
愛子に言われて拓巳は背筋を伸ばして返事をした。
「でも違うと思う。」
とポツリと溢した。
「あら?何が?」
お茶を淹れてソファのテーブルまで移動する。
拓巳も愛子の後を追う。
隣に腰を下ろしてお茶を受け取った。
「だってさ、愛子の話通りだとすると、二人の20代の女性が同じ会社の、それが同時に俺を好きとかあり得ないよ。それじゃあ二人はライバルでそんな近くに住んでて?偶然にも程がある。」
「そうね?同じ会社だから好きになるんじゃないの?全然、知らない人を好きになる?」
「…うっ!」
「偶然って言うけど、好きになるのに家が遠いから近いから関係ある?ライバルいるかいないかから、考えるの?」
「…う。」
言葉に詰まってしまった。
愛子には敵わないのだ。
「どうしたら、いいとおもう、かな?」
おずおずと聞くから愛子は笑う。
「拓巳さんらしく、真っ直ぐに嘘を付かずに。相手の幸せを考えて、ひどい言葉に聞こえてもそれは一時的な物で、後になれば幸せでいて欲しい気持ちはちゃんと伝わると思うの。」
「……うん。愛子?」
「なぁに?」
「それ、俺がきつい事言って断る前提だな?」
「………だめ?違う?」
「ううん、いい!愛子だけだから。良かった。分かってくれてて…。」
笑顔を向けられて、愛子は下を向いてしまった。
(やられた…。)
と思っていた。
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