大山早苗

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少し怯んだ表情をしてから、また負けるものかという顔つきになりキッと睨む。 (本人に言ったほうが早くない?) ほぅと、ため息を愛子が吐くと、またキツイ目を向けて来た。 「余裕ですか?結婚されているから?私では相手にならないと思ってますか?」 この時、愛子が考えていたのは、攻める場所が違う、という事と、どうして自分はいつもこういう女性に当たるのか?という事だった。 最大のライバルは安藤彩香と言えただろう。 六年もの間、結婚生活を邪魔されて、離婚前に仲睦まじい姿を見せつけられた、あの衝撃と憎しみは今でも思い出せば腹が煮え繰り返る。 まして平気な顔で自宅にも部下として来ていたのだから、当時はよく我慢出来たな、と振り返りお茶を飲んだ。 「私では相手にならないって思ってます?後悔しますよ?」 会社での事でエリアマネージャーにまでなっただけあって、大山も冷静を取り戻し、キツイ眼差しだけはそのままに愛子を見て言っていた。 「相手になるとかならないとか、そこから違うの。余裕があるとか、それも違うわね?誰を好きで誰と人生を歩きたいか、それを決めるのは藤代さんなの。彼の人生は彼のものだから。あなたが彼を好きで振り向いてもらえる様に頑張るのはあなたの自由ね。でも、相手の迷惑や家族に対して礼儀や節度がないとそれはただの迷惑な押し付けで、恋愛じゃないわ。好きになった相手が既婚者である時点で、諦めきれずに手を出すならそれ相当の覚悟と代償が必要だわ。冷静に考えてね?」 それだけを言い、愛子は席を立つ。 「あ、そうそう、本気で来るなら本気で対抗するから。余裕はないの。私にあるのは感謝だけよ。もっと手強い人を相手にした事があるの。覚悟してね?」 座ったままの大山の肩を、愛子はポンポンと軽く叩いて部屋を出て行った。
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