大山早苗

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なによ!という声がドアを閉める瞬間に聞こえた。 愛子にしてみたら、またか、であり、どうして自分ばっかり…という心境だ。 事務所に休憩終わりのカードを通しに行く。 (世の中、独身男性はいっぱいいるのに、どうして既婚者を狙うのかしら?私が簡単に泣いて引き渡しそうな女に見えるのかしら?) 考えながらカードを通して、エプロンをその場で着ける。 (まぁ…拓巳さんは仕方ないかな?歳下だしね。取れそうって思うのかも。) 愛子は53歳、拓巳は41歳、年齢差はまだ大きかった。 (そういえば、私が骨折したのって、誠一さんが41の時だわ。) ーー「厄年が愛子にいっちゃったな?本当にごめんな?治るまで何でもするから!!ゆっくりするんだぞ?」 「何言ってるの?前厄でちゃんとお払いしたでしょ!考え過ぎよ。大丈夫。誠一さんのおかげでこれくらいで済んだわ。誠一さんは私と武田さん、二人を助けた事になるのよ。ありがとう。」ーーー 今となっては誠一は愛子の涙のスイッチの様だった。 毎日の生活の中に、誠一を思い出しては涙が出た。 最初の頃は、我慢も出来ずに泣き崩れていたが、今は耐えられる様になっていた。 一筋、頬を流れた水滴を手で拭い、軽く両手で頬を叩いてから店に出た。 (拓巳さんも41歳、去年、前厄でお払いしてないわ!帰ったら話してお払い行こう!うん、きっと厄年だからだわ。) そんな事を考えながら笑顔でレジに立った。
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