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今後の参考になります、と真剣な顔で愛子の話しを聞いていた愛実は、話しが終わると、
「お母さん……。強いね?そんな正面からガチで来られたら私、負けそう。」
怖い怖い…と両手で体を摩りながら言い、失礼ね、と愛子は返した。
「お母さんが強いというよりは、奥さんに宣戦布告出来る彼女の方が強くない?別れて下さいって言ってるのよ?」
一人だけ追加した梅酒を手に、グラスが揺れて解けかけた氷がカランと音を鳴らした。
「それを言う事で喧嘩でもしたら良いと思っているんでしょ?計算だよ。拓巳ちちが愛想を尽かせば良いと思ってる。年齢差、言われたんでしょ?拓巳ちちもそろそろ別れたいなぁ、歳だしなぁとか思ってたら、ちょっとお母さんの嫌な所見せれば良いだけじゃない?」
「そんなのいっぱい見てるじゃない!普段から!いつも!通常営業で!」
「………お母さん、そこ自慢するとこじゃないから!」
呆れた顔で言われて、愛子は少し赤くなった。
「誠一さんもモテてたし、拓巳さんもモテるみたい。そういう人を選んじゃったのかな?お母さん。それともお母さんが取れそう、って見えるのかな?今日ね?どうしてああいう人ばかりに遭遇するのかしらって考えたのよ。」
今日、不意に頭に浮かんだ疑問を口にする。
「そんなの…お父さんも拓巳ちちもかっこいいし、モテるだろうけどさ、やっぱりお母さんじゃない?」
愛実に言われて、少しショックな表情を愛子は向ける。
「あ、お母さんが悪いわけじゃなくて!お母さんが大事にされてて、愛されてて、お母さんも幸せそうでそういうのってさ、女性には夢でしょ?大事にされて愛されて、自分も愛する?普通ならさ、いいなー羨ましいなぁ、で終わるけど、好きな男性?本気なら余計に、その男性を手に入れたらその立場も自分の物でしょ?一度で二度美味しいじゃない?」
「愛する男性と…愛される立場が欲しいって事?」
竹輪を右手に、チーズを左手に持ち、見つめながら愛子は訊き返した。
「不倫!駄目だ!諦めよう!の後に、いいなぁ、私、本気だったのに…あの人がいなければいいのになぁ。そしたらこの恋は満願成就するのになぁ…って感じじゃない。」
「ふぅん……。」
半分納得な雰囲気で愛子は竹輪を口に入れる。
「でも、それで行くとお母さん、不幸せです、ていう感じにしてないと、これからも宣戦布告されちゃうって事?」
「そう何回もないでしょ?あったとして、お母さん負けてないし大丈夫でしょ?拓巳ちちもお母さん一筋で気持ち悪い位だし、誘惑されないでしょ?」
「誰が気持ち悪いの?」
女同士のきゃいきゃいした声の間に、太い声が聞こえて、後ろを振り向いた。
二人で乾いた笑い声を出して、愛実は慌てて部屋に戻って行った。
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