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残り時間は数分を切る。
この数分を逃げ切れば俺の勝ちだ。優斗が先ほどから俺の身代わりとなってこの周辺にいる者たちを陽動している。それがいつまでもつか。一日学校中を逃げ回った俺自身の体力ももう限界に近い。
「翔」
優斗が戻ってくる。囁くように小さな声で優斗が俺の名を呼んだ。こんな当たり前のことになぜか安堵した。泣きそうになった。変わらない親友に感謝した。
「あと一分だ」
優斗はそう言って自分の腕につけた腕時計を俺の前に示す。俺は優斗と共に願うような気持ちで羅針盤の針を追う。十秒前、共に目くばせをし、カウントする。
「・・・3,2,1」
0を同時にカウントし、俺はその場に脱力する。優斗が俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「疲れただろ、少し休め」
そう言って優斗が俺の頭を抱き寄せる。俺は小さくお礼を言って親友の肩にもたれるようにして目をつむる。やがて俺の意識は完全に闇に落ちた。
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