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調節ねじを回し時計の針をくるくると回す。
「ごめんね翔」
時刻は23時56分。時計の針はあらかじめ五分遅らせてセットしていた。
俺は分かっていた。翔が俺に最初に助けを求めることも、他からの追随から逃れることも。そして、注意深く警戒心の強い翔に付け入る隙はこの瞬間しかないことも。
嘘と偽りで身を固め、君に近づいた。βだと嘘をつき道化のふりをしてきたのも、君からの信用を得て親友の座についたのもすべては今日この日のため。この嘘で塗り固められた「β」で「親友」の「優斗」だから翔はここまで気を許した。それは酷く皮肉だと思った。
蓮見のすべてを手に入れる、そのために近づいた。けれど、目的を見失いそうになることが度々あった。君と過ごす時間があまりに楽しくて、居心地がよくて。
俺は今日君から得た信頼も、培ってきた信用も、時間も思い出もすべてを失うのだろう。謝っても許してはもらえない、もう二度と君は僕に笑いかけてはくれないかもしれない。
それを考えるだけで胸が締め付けられる。
君は目的を果たすための手段でしかなかったはずなのに、自分でも気づかぬうちに手段は目的へと姿を変えていた。
「俺は君が欲しいんだ」
だから、ごめんね。
俺は寝息を立てる翔のうなじに歯を立て、深々と噛み跡をつける。
その直後、定刻を示すチャイムが校内に響き渡った。
【運命の日 《終》】
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