24人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
***
「おはよう、ロイド」
ロイドが起きてくると父、レオンはすでに朝の仕込みを始めていた。父の仕込みの様子が見えるいつもの定位置で朝食をとるとすぐにロイドはレオンと同様に開店の準備を始める。レオンは城下の小さな喫茶店を営む店主だ。ロイドは物心ついたころからレオンと共にこの店を支えてきた。
決して裕福ではない、けれど確かにそこに幸せがあった。そしてこんな日常がずっと続くと思っていた。
しかしそんな穏やかな日常はその日、不躾な来訪者たちによって突如壊される。
砂埃を立てながら店や客の事情などお構いなしに入店した3人の軍服をきた兵士たち。その胸元には王家の紋章があった。
王家直属の兵士によって取り押さえられたレオンは一瞬驚いた顔を見せたが、それ以降特に抵抗をすることもなく、諦めたようにうなだれた。その様子はまるですべてを理解しているかのようにみえた。自身の運命を受け入れ、しかし抗うつもりもない、そう言っているように見えた。
「ロイド様、お迎えに上がりました」
呆然とするロイドの前に一人の兵士が片膝をつく。何を言っているのか意味が分からなかった。どうして王直属の兵士たちが父を取り押さえているのか、どうして彼らが自分の前に傅くのか。
「父を離せ」
「いいえロイド様。この男はあなたの父親ではありません」
一体何を言っているのか。レオンが父でないというのなら一体なんだ。
「この男は15年前、赤子だったあなたを王宮から誘拐した罪人です」
突拍子のない目の前の男の言葉に放心する。王宮?誘拐?罪人?聞きなれない単語が頭に羅列する。
兵士は続けた。
「あなたは正真正銘王の血を引く者、この国の王太子でございます」
王宮までご同行いただけますか、兵士の言葉にロイドは頷くしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!