風待ちの草原〜After Life〜

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 私が最後に覚えている記憶のようなものは、真っ白な天井と私を覗き込む大人たちの顔。みんな眉を下げて悲しそうな感じを演出していたけれど、どこかホッとしたような気配がにじみ出ていた。冬だというのにとても良いお天気で、わずかに開けられた窓から入り込む風が窓際のカーテンをふわりと揺らしていた。  その風の香りを感じてみたかったな。    ふと気付いた時にはここにいた。  真っ白な雪景色がどこまでも広がる雪原で、目の前にはしんとたたずむ古びた建物があった。飾り気のないシンプルなコンクリート造りの建物だったけれど、ドアだけは草木をモチーフにしたと思われる装飾がぎっしりと施されていた。  大きく開かれたその扉が、私を待っているのがわかったけれど、私は動かずにいつまでも飽きずに空を眺めていた。今まで知っていた白とはぜんぜん違う感じの白が空から舞い降りてきていた。  雪だった。  私の初めての雪だった。  手のひらに落ちたひとひらは思ったよりも冷たくなくて、いつまでも私の上に止まっていた。真っ白な雪原はどんどん私の足元を覆っていって、このままうもれてしまえたらきっと幸せだと思ったことをよく覚えている。
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