その先は知りたくないです

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 五十嵐と同じ部署で、万丈は人当たりの良い優しい先輩であり、課長の一ノ瀬は無口でいつも仏頂面ゆえに怖がられていた。 「すごいな、あれ」  早速、万丈が二人に話しかけてきた。 「本当ですよね」  あっという間に女子に囲まれた千坂を見ながら息を吐く。 「ま、ここでゆっくり飲もうや」  そういって空のコップにビールをついでくれた。 「ありがとうございます」  席を離れる時に千坂が見ていた。でもどうでもいい。飲み会にきたのに楽しく飲めないのは嫌だ。  乾杯と三人でグラスを合わせてビールをあおる。 「はー、うまい」 「お、イケる口か」 「はい」  ここで楽しく飲もうと思っていたのに、スマートフォンが震えて画面を見てため息をついた。 「……トイレ行ってくるわ」 「わかった」  席を立ちトイレへと向かうと、すぐにドアが開く音が聞こえて鏡の向こうで千坂が百川を見ていた。 「なんです、このスタンプ」  眼鏡を掛けた猫が怒っているスタンプだ。千坂の方へと画面を向けると、背後の壁に手をついて立ちはだかる。 「憤怒(ふんぬ)!」  それはスタンプに書かれている文字だ。 「いや、それじゃなくて」 「だって、万丈さんと楽しそうにしててさ、ムカつくだろうが」  場所を追い出されたから移動したまでのこと。それに万丈と楽しく飲んで何が悪いというのか。 「ムカつく意味がわかりません」  しゃがんで腕から逃れると、ドアの方へ向かう。だが、腕をつかまれて引きとめられた。 「このまま抜けよう」 「え?」  そういうと腕を引っ張られて、 「待ってください」  そう手を払おうとするが、腕を強くつかまれた。 「千坂さん」 「行くよ」  離す気はない、そういうことだろう。百川は諦めてため息をつくと力を抜いた。
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