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皆が飲んでいる座席へと戻ると、
「五十嵐、俺、酔ったから、百川に送ってもらって帰るわ」
上着と鞄を取ってくれという。
会社の飲み会で酔うほど飲まないくせに、いつの間にかネクタイを外してボタンを開けて、酔ったふりをしている。
「千坂さん」
帰ると言った途端に、女の子たちが口を開く。
「私が送っていきます」
「いえ、私が」
そうなるのは当然だ。女子にとってはチャンスなのだから。
俺を見る女子たちの目が、遠慮しろといっているかのようだ。
「千坂さん、女子に……」
そう言いかけた俺に、
「ダメだよ。女の子に迷惑はかけたくない」
ときらきらとした笑顔を浮かべた。
これで何人の女の子が騙されただろうか。
「それじゃ、お先に失礼します。みんな、楽しんで帰ってね。いくぞ、百川」
さりげなく腰に手をそえるとか、あまりにスマートで嫌だ。
「はぁ」
気のない返事をし、千坂と共に店を後にした。
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