俺、慣れてないんで

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 中へ入ると玄関で抱きしめられてキスをされる。気持ちよさに頭が惚けたが、手が服の中に入り肌を撫でられた瞬間、はっとなる。 「ダメですって」  それを止めるが、なんでというような顔をされた。 「キスを許したらその先もしていいとか思ってます?」  好きだという気持ちは伝わってきたけれど、俺の気持ちはまだよくわからない。  それなのに先に先にと求められ、置いてけぼりをくらっているかのようだ。 「百川は行動で示さないと考えてくれないだろう? 俺はただのいい先輩でいるつもりはない」  そう千坂が言う。  本気なんだと千坂の目を見ればわかる。だけど、そんなことを言われても困る。 「だから俺は慣れて……」 「それ、言い訳だから。俺は押すタイプなんで。これからも隙あれば手を出すつもりだから」  止まるつもりがない千坂に、百川は黙り込む。 「それでも嫌なら俺を部屋から追い出せばいい」 「……えっ」  追い出す。本当に嫌ならそうするべきなのだろう。  千坂はきっと今まで通りに接してくれる。でも百川の方はどうだ。  自分にだけ見せていた本当の姿。二度と見ることはないだろう。  掃除も、ついでにご飯を作ることもなくなる。 (楽じゃないか)  千坂の面倒を見なくて済むのだから。  だけど胸の奥がチクチクと痛むのはどうしてだろう。 「百川、どうした?」  心配するように千坂の手が額に触れる。  顔が近い、そのことに動揺し熱が上がる。 「あっ」 「なんだ、意識したのか?」  顔面偏差値の高い男の顔が近いのだ。
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