俺、慣れてないんで

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「違います。近いっ」  顔を手で覆い隠す。 「そりゃ、近づけてるからな」  掌に柔らかいものが触れて離れる。  それが余計に百川を熱くさせた。 「もう、勘弁してくださいよっ。千坂さんとのこと、きちんと考えますから」  力が抜けて床に座り込むと、千坂がしゃがみこんで笑顔を浮かべる。 「まぁ、一歩前進ということで良しとしますか」  そういうと百川の肩をぽん手を置き、あたりを見渡すと寝室の方へと歩いていく。 「え、ちょっと、どこへ行くつもりです」  嫌な予感がして立ち上がると千坂の腰へと腕を回して引きとめた。 「寝室」  当然のように言うけれど、下心しのある男を寝室に入れるつもりはない。 「ダメですからっ」 「俺のことを抱きしめているのに?」  そういわれて慌てて腕を離すが、振り返った千坂が今度は百川の腰へと腕を回した。 「千坂さん、俺は」  慣れていない、そう言いかけて口を噤む。  千坂の言う通り、それを言い訳にして逃げようとしている。 「俺の気持ちを考える気になってくれたようだな」  ふ、と優しい笑顔を見せて頭をぽんぽんとたたく。  ずるいなぁ。今、その顔をされたら胸がキューンと締め付けられてしまう。 「だからイケメンは」 「惚れちゃうだろう?」  そういってウィンクする。それが憎らしいほどに様になっている。 「己惚れてないで、泊まるならお風呂どうぞ。ソファーかしてあげますから」 「わかったよ。今日はこれで勘弁してやるから」  ちゅっと音を立て、触れるだけのキスをして額を合わせた。 「もうっ」  千坂のペースにならないようにと思っていたのに、完全に巻き込まれてしまった。  頬に手が触れる。 「仕方がないので、服をかしてあげます」  それに頬を摺り寄せれば、 「ありがとう」  手が離れ、蕩けそうなほど甘い笑顔を浮かべた。
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