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※※※
朝食の準備は毎日していることだ。
炊き立てのご飯をかきまぜ、煮干しから出した出汁で味噌汁を作る。
おかずは焼き鮭と漬物、あとは卵焼きにしよう。
冷蔵庫から卵を三個取り出したところに、
「おはよう」
と言われて振り返る。
寝ぐせ。それに薄っすらとひげが生えている。寝起きの姿はおっさんぼい。
その姿は何度か見ているので百川にとっては珍しくはないものだ。
「あ、おはようございます」
「玉子は甘いのにしてくれ」
リクエストを貰ったのは初めてだ。
「甘いのですね。わかりました」
椅子の背もたれにかけてあるエプロンを手にし身に着ける。
すごく視線を感じるが無視をしていたら、
「……裸エプロン、いいよな」
なんて言い出す。
「絶対にやりませんよ」
朝っぱらからろくなことを考えていない。
「えぇっ、なんでよ。丸出しの尻を眺めながら料理を待って、途中で我慢できなくなってさ、結局はお前を食っちゃうのって、おい、フライパンは危ないぞ」
卵焼き用のフライパンを振りかぶる百川に、千坂は両手を突き出してやめろというポーズをとる。
「もう黙っててくれません?」
フライパンをコンロへ戻して卵焼きを焼く。皿に盛り付けたらごはんとみそ汁をよそいテーブルに置いた。
卵だけでは寂しいので納豆と漬物もともに出す。
「うまそう。いただきます」
「はいどうぞ」
箸が卵焼きをつかみ、そして口へと運ぶ。
「はぁ、美味い。甘い卵焼き、久しぶりに食べた」
うまそうに食べる姿に、気に入ってもらえてよかったとホッとする。
「そうですか」
自分もご飯を食べ始めると千坂がじっとこちらを見ていた。
「どうしました?」
「出来立ての料理が食えるのっていいなぁ、と」
千坂が何を考えているのかわかってしまい、深くため息をつく。
「嫌ですよ」
千坂の奥さんにも母親にもなりたくない。
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