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「夜は任せとけ。アンアンいわせてやる」
親指を立てる千坂に、軽蔑するように目を細める。
「朝から下品なので没収です」
千坂の卵焼きに箸を刺して奪ってやった。
「ごめんっ、謝るからさ、全部もっていかないで……」
玉子焼きごときで情けない顔をする。
「俺な、浮かれてるんだわ。幸せだなーって」
照れ笑いを浮かべて俺を見る。
なんだよそれ。不覚にも可愛いなと思って、胸がときめいてしまったじゃないか。
箸に刺した卵焼きを千坂の方へと向け、
「一つだけかえします」
というと千坂が口を開き、入れてと指をさす。
箸から卵焼きを一つ指で摘まむとそれを口の中へと入れる。
その手をつかみ、玉子焼きを食べて舌で摘まんでいた個所を舐めた。
「俺の指はおかずじゃないですよ」
「ん、でも美味いぞ」
舐めるのを止めなかったら調子に乗って舌が付け根のほうまで弄り始めて、やめろと舌を指で挟んだ。
「むぐっ」
「ごはん中です」
そういって顔を背ける。きっと、顔が真っ赤だろう。
「わかったよ。今は腹を満たす。心とお前の中を満たすのは後な」
「……はぁ!?」
さらっと何をいうのだろう、この人は。
「俺の中は満たさなくていいですからっ。本当、朝っぱらから」
やっぱり玉子焼きは没収。
最後の一切れを摘まむと百川は自分の口の中へと入れた。
<了>
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