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せき込む百川に、缶コーヒーを差し出した。
「はぁ、何するんですか」
「お礼にと思って」
「いらないです。無駄にときめきたくないですから」
そう、男でもドキドキとしてしまう容姿なのだ。
「ほう、ときめくか」
にやにやとしながら顔を近づけてきて、むかついて後へと下がる。
「近い。うざい」
「酷いなぁ」
頭をたれ、百川の方へと視線を向ける。
「元気出たとか、仕事を頑張れるなー、とか思わないわけ?」
「そういう千坂さんはどうなんです」
「俺は頑張れちゃうけど」
男にすらそういうことを言えるから、男女問わず慕われるのだろう。
「それじゃ、俺の分まで頑張ってくださいね」
冗談でそう口にしたのに、どうやら本気だったようだ。
あれから千坂はすごかった。本当に定時で仕事を終えてみせたのだ。
「有言実行ですか」
「そりゃ、ね」
と機嫌よく俺の頭を撫でる。
「千坂さんの、そういう所が嫌です」
「えぇっ、落ち込むなぁ」
そういうと頭を撫でていた手が今度は百川の手をつかむと、
「だから慰めて」
千坂の頭へとのっけた。
「なっ」
弱ってますアピールなのか、千坂を狙う女子ならきゅんとしていたところだろう。
いや、百川も少しだけきゅんときてしまった。撫でて欲しいのか、じっとこちらを見上げているのだから。
だが素直に撫でてやる気はない。それでは思うつぼだ。
「調子に乗るな、ですよ」
軽くぽんと頭に手をやると、千坂の口元は笑っていた。百川とのやりとりが嬉しいのか。そんな顔を見せるから男同士だというのに可愛いとか思ってしまう。
「それじゃ、部屋で飲もう」
「嫌ですよ。千坂さん酔うし」
この前のようなことになるのは困る。
「うん、酔うね」
だが、それを望んでいる、千坂の表情はそう語っていた。
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