のり弁騒動

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 この発言にはさすがの二人も、うなだれた。  山伏は錫杖を両手で持ちながらうつむき、作業員は腕組みをし眉間にしわを寄せた。  『だからのり弁でいいのだ!迷った時はのり弁に限る』  『いやせめて特のり弁だべ。後悔するって』  『いいや、昨日は贅沢をしたのだから今日は300円!』  『プラス90円でタルタルソースとメンチカツ!今夜はビールは無しで!』    本人はのんきだというのに、守護霊の二人は一触即発の状況である。  うぬぬ〜といがみ合い、300円!タルタルソース!など連呼している。  ついに山伏が錫杖を(かか)げた。  『こうなったら!!!』  シーリングライトで先端が輝いているそれに、作業員はひるんだ。  『そ、それはそういう使い方しちゃいかんだろ!』  ヘルメットを被っているというのに頭を覆うようなポーズを取った。  『ど ち ら に し よ う か な』  錫杖でチラシの、のり弁と特のり弁を交互に指し、まさかの「神様の言うとおり」を始めた山伏。シャン、シャン、シャン・・・。  『それかーい!』  突っ込むしかない作業員。  気のせいか本人は、それに合わせて、のり弁と特のり弁に視線を動かしている。    『か み さ ま の い う と お り』  『な の な の な す び の か き の た ね』  『違うって!なのなのなすびの、はげあたま!』  『ハゲ!なんたる失礼な!柿の種じゃ!』  『はげあたま!』  『柿の種!』  二人は「どちらにしようかな」の歌詞でもめだした。  『はげあたまだって』  『柿の種だ』  本人のすぐそばで、山伏と作業員が顔を真っ赤にしていがみ合っている。  ここまできたら守護霊同士、負けられない意地がある。
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