のり弁騒動

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 『どうする?のり弁か特のり弁か、見届ける?』  『そうさのう、特のりだったらお主は笛を気持ちよく鳴らすのか』  『あんたこそのり弁だったら、法螺貝(ほらがい)でも吹くんかい?』  『あいにく、法螺貝は持ち合わせていない』  『なんだかんだいうて、こやつは今の所順調なのだろうな』   『だなぁ、健康だし事故にも遭わない、しいていえば彼女か』   『そればかりは、わしらには、なぁ・・・』  山伏は手甲(てっこう)を整え、作業員はヘルメットのあごひもを微調整した。  彼らはそもそも、若者の弁当選びの為に現れたわけではない。  体の弱い母親に連絡を怠っている、もし転職を考えているならそろそろだ、生活を整えて人生設計を・・・と気にかけていた所だったのだ。  『お袋さんの所へ顔を出して墓参りさせねばのぅ』   『そうだな、まずはそこからだべな』  ガチャ!ドカドカ・・・  ビニール袋のワシャリという音と共に、若者が帰ってきた。  机の上に、どん、と適当に置かれたそれは・・・  『牛丼かーい!』  修験道者と工事現場職人、二人が同時に叫んだ。  『こやつの選択肢はどこから・・・』   山伏が頭を抱えると、  『おい、他にもあるぞ』  作業員は思わずホイッスルを口にくわえそうになりながら、そう言った。  牛丼の袋の横に、それより少し小さい袋が寄り添っている。  「さーさー、飯、飯!クーポンあってラッキー!」  『なるほど、クーポンからそうきたか・・・』  二人は合点がいったようだった。  若者は冷蔵庫からお茶のペットボトルを出し、牛丼とごぼうサラダを並べ始めた。よく見るとお茶の他に、納豆が一パックあった。  「納豆かけて食べると美味いってかーさん言ってたからやってみよ」    『あー!納豆は冷蔵庫から出して15分してから・・・!』  『まぁまぁ、よいではないか。サラダも買ってきとるし』  『せめて納豆は200回混ぜろよ〜』  二人は顔を見合わせて、頷き合った。  『おいとま、するか』   『そだな』  何となく、ものすごくフワッとしているけれど、守護霊の願いも通じたような気がしたのだ。こうして彼らは時々、守るべき人間の様子を窺い、導こうとしたりメッセージを伝えたり、しているわけで。  「うんま!アリだわ。後でかーさんに連絡しよ」  その言葉を聞いて、二人はプラス20%くらい安心して、  『ゴミの分別をしろよ、では!』   『したっけ、またな』  と若者に言い、互いにグッドサインを出し合って、山伏は錫杖を軽く鳴らし、作業員は安全確認をして、ふっと消えた。それでまたチラシが浮いた。  「ん?」  こうして彼の健康と幸せは、知らないうちに守られていた、ということにしよう。
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