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『……あ、いいな、この味』  金色の蔦模様が、外側にグルリと描かれた、真白のカップ。覗き込むと、淡く湯気立つ濃茶の液体に、天井で回るレトロなシーリングファンの羽が映っている。壁際に置かれたオルガン、天井近くまである大きな本棚、落ち着いた焦げ茶色のテーブルや椅子。飴色のドロップライトに照らされた店内は、カフェと呼ぶより喫茶店が相応しい。 『でしょ? きっと好みだと思ったの』  一先早く真犯人が解った助手のような得意顔で、アイツは眼鏡の奥の瞳を細めた。 『うん。しばらく通いたいレベルだ』  ブラックが苦手なアイツは、満足気にカフェオレを傾けた。  言葉通り、それからしばらくの間、その喫茶店は俺のデートコースに組み込まれた。  けれど――それも2年前が最後。彼女と別れてからは、仕事帰りに豆を買いに立ち寄るだけだ。  ガリガリ……ゴリゴリ……  十分な量の粉が挽けた。残りの豆を密封して冷蔵庫に戻し、ボウルにマグカップを入れて、お湯で温める。  ドリッパーにフィルターをセットして、少しお湯を注いで馴染ませる。それから、挽いたばかりの粉を移し、準備完了。  本格的なサイフォンが欲しいが、多分アイツはいい顔をしない。 『もう、趣味にばっかり一生懸命なんだから』  一昨日の夜。ダイニングで向き合うアイツは、呆れたように頬杖を付いて、俺を見上げた。 『何だよ』 『そろそろ、お父さん達を安心させたいと思わない?』  ドキリとした。子ども好きのアイツが、姉夫婦の出産祝いを選ぶ時、必要以上にベビー用品のカタログを取り寄せていたこと――そりゃあ、俺だって気付いていたさ。
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