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「あと、君、君ってずっと言われてると変な感じするから、花火って呼べよ普通に」
他人を呼び捨てで呼んだことなど一度も無いので、正直呼び難い。しかし、彼を君付けで呼ぶのは、もっと気持ちが悪い気がする。
「……花火、の家は、どの辺り?」
慣れない言い方に、言葉がスムーズに出て来なかったが、花火は満足そうに笑って進行方向とは逆を向いて「あっち」と言い放った。騙された。
「……方向が同じだって、言ってたじゃないか」
「ははっ、別にいいじゃん。俺が遠回りするだけだし」
それはそうなのだが、下校を共にするのには、あまりに不自然だ。
「それに、いつも同じ道で帰ると他校の奴とか喧嘩吹っ掛けてきて面倒なんだよ。喧嘩してぇわけじゃねえし、あんまし停学食らうと卒業出来なかったら困るしな」
この辺りが地元なら、家を知られていても可笑しくない。前回の停学も待ち伏せられていたらしいから、毎日登下校時にその可能性があるのだ。
「喧嘩、好きでやってるんじゃないの?」
「は? 誰が好きで人を殴るんだっつの。あくまで向こうが殴り掛かってくるから仕方なくに決まってんだろ」
同年代の力自慢達が花火に挑みかかってくるのだろうか。本人の意思とは関係なく。そう思うと、喧嘩が強いというのも厄介だ。
「負けたら、もう誰も来ないんじゃない?」
「馬鹿だな。それはそれでつまんねえ虐めすんだよ、あいつらは。サンドバックになるぐれぇなら、サンドバックにしてやるっつーの」
確かに顧みると、抵抗しないからと言って、彼らが僕に対する暴力行為を辞める様子は無かった。ただ鬱憤を晴らすことができればそれでいいのだ。花火は独りだが、徒党を組んでいても彼には敵わないので、尻尾を巻いて逃げていく。
しかしわざわざ他校の生徒が挑んでくるということは、同校内ではもう相手になる者は居ないということなのだろうか。
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