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「お金が、無い……」
「そんなの親父がくれるって。な!」
花火のお父さんは苦笑しながら、「ああ」と頷く。お金の問題、だけではない。
「じゃあ後でな!」
断る理由を考えているうちに、花火が軽トラックに乗り込んでしまい、ゆっくりと発進していった。
――どうしよう。……いや、事情を話して謝るしかない。
ため息を吐いて、重い足取りで図書館に向かった。
図書館は地域住民のための小さな施設だ。それでも学習室では、受験生らしい人やレポートのためか大学生がちらほらと座っていた。
窓際の一人ずつブースに区切られている席に座る。特に気にせずに持ってきたが、今回入っていたのは志望大学の過去問集だった。時間を測って一教科分解く。花火のことが気に掛かり集中出来なかったが、四十分くらいで解き終わった。
少し伸びをして視線を上げると、きょろきょろと辺りを見回している花火を見つけ、思わず手を上げて立ち上がる。
「キリのいいとこまでいったら教えろよ」
花火は近くの椅子を僕の隣に持ってきて座った。白のパーカーに黒のスカジャン、だぼついた幅広のジーンズ。あまり身近では見慣れないファッションだ。本当は行きたいけれど、断らなければ。
「……勉強、しなきゃいけないから……やっぱり行けない」
「別に一日くらい休んでも成績落ちねえって」
「母さんが、見てるから……学校と図書館とコンビニ以外に行けないんだ」
辺りをきょろきょろする花火は首を傾げて、「誰も居ねえけど」と言う。僕はトートバッグから携帯電話を取り出した。
「GPS機能を使って、時々見られてるんだ。記録を辿られたりも、してる……」
「へえ。高校生の一人暮らしも大変だな」
そう言って、僕の携帯電話を取り上げると、何か思い付いたように立ち上がる。
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