49人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここってロッカーねえかな」
「え……?」
図書館の受付カウンターの隣にロッカーがあるのが見えて、花火が携帯電話を持って歩き出す。慌てて追い駆けると、携帯電話をロッカーに入れてしまった。
「こうしとけば図書館に居るように見えるし、図書館居んのに電話掛けてきたりしねえだろ」
そんなこと思い付きもしなかった。そもそも母に背くつもりもなかった――監視されなければならない理由も分かる――ので、考えることもなかったのだけれど。
僕が反抗しないところを見て了承と見なしたのか、花火は財布から百円を取り出し投入する。そして鍵を掛けると、僕に手渡した。
犬歯を覗かせて笑む花火に、「荷物取ってくる」と断って自習室の席に戻る。問題集と筆記用具をバッグに仕舞い、花火のもとに戻る時、逸る気持ちからか小走りになった。
「じゃ、行くか」
花火と一緒に図書館を後にして、ふと映画というものに今まで触れたことはなかったと気付く。
「映画って、ちゃんと観たことないかも」
幼少期に保育園などで何かを見せられている可能性はあるが、殆どテレビの点いていない家であったし、父も母も家に居ないことが多かった。自分でも映画を観ようという気持ちになることもなかったので、ずっと映画というものとは縁が無かった。
「まじか! 流石ガリ勉」
「……別にガリ勉じゃないってば」
「はいはい、勉強以外にやることないんだろ。分かってるって」
そう言って笑って脇腹を小突いてくるが、毎回このコミュニケーションをの仕方には上手く反応できない。
「これから見る奴、すっげぇ面白えよ! アメコミのヒーローが滅茶苦茶出てくる奴でさ!」
アメコミとは、アメリカンコミックということでいいのかどうか、というところから話に引っ掛かってしまい、花火がとても楽しそうに話をしている内容についてはほとんど意味が分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!