第一話 始まり

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 が、午後の授業の後、僕は進路指導担当の先生に呼び出された。  職員室に行くと先生の机の側にパイプ椅子が置かれていた。深刻そうな顔で、僕の進路希望表を持って待っていた。  内容は僕の成績の事だった。正しくは、「この学校のレベルではお前の希望する大学への受験対策は出来ないが大丈夫か」ということだった。この学校の多くの生徒は就職希望で、残りは専門学校か偏差値の高くない大学・短大に進学するという。  僕は自主学習で充分賄えていることと、受験までにある残りの全国模試は個人で申し込むので学校側に対応を求めることは無い、ということを伝えた。先生は肩の荷が下りたようで、何かを紙に書いて「良かった良かった」と笑った。  職員室を出て、まだ時間があったので図書室に向かった。その間に先生が生徒指導室ではなく職員室を選んだ理由を考える。僕と密室に入りたくなかったのだ、と思う。  前の学校での噂は塾が同じだった生徒の口から学校中に広まっており、勿論先生達も知っている。先生達は更に母から僕の行動に注意するように伝えられているから、僕と極力接触しないように、しかし遠くから観察しているような視線を送られているのが分かった。  ただ、学校司書の女性は特に僕に気を留めていないようで、唯一僕のことを知らない人がいる図書室は集中できる場所だった。  というのも、そもそも図書室を利用する生徒はほとんど居らず、放課後ともなると今まで毎日のように通っているが、一人も見かけたことが無かった。  静かで集中出来る場所なので、いつも図書室が閉館になるまで勉強してから帰る。家に帰ってからも、晩御飯と風呂以外は寝るまで勉強をしているのだけれど。  勉強はただの暇潰しで、好きでも嫌いでもない。
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