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歩き出す彼の後ろを、少し遅れて歩く。ただ方向が同じだという風に周りに見えたらいい。
「俺は他人にどう思われようが構わねえよ」
僕の心読んだかのような台詞に、思わず目を見張る。
「俺は俺の好きにするって決めてんだ」
「……君は気楽でいいね」
新学期が始まる前に停学を言い渡されて、一週間姿を見なかった不良だ。真面目に考えようとした自分が馬鹿馬鹿しくなる。
どうやら停学の理由は初日の登校で他校の生徒が待ち伏せており、喧嘩したことが原因だという。気にはしなかったが、周りのいくつかの会話が勝手に入ってきて、そういうことらしいと分かった。
そして、彼が学内で最も恐れられていることも。親がヤクザだと言っている者もいた。こうやって話していても、その恐ろしさが全く伝わって来ないので、噂は噂でしかないのかとも思うが。
「学校だってつまんねえけど、つまんねえ中でも好きなようにしねえともっとつまんねえだろ」
「……つまり陽川花火にとって僕は暇潰し?」
「フルネームで呼ぶなよ」と一笑したが、特に否定もしないところを見ると、遠からずといったところか。
「花火でいいぜ。俺は一温って呼ぶし」
馴れ馴れしいなと思うけれど、フルネームで呼ぶのも変だ。陽川と呼ぶのもいいが――。
「一温、友達居たこと無いだろ」
いつの間にか僕の隣を歩いていた彼の顔を見る。なかなか失礼な物言いだ。
「俺もねぇけどさ」
不良は大体そういう仲間と徒党を組んでいるイメージがあったが、彼はそういうタイプではないのか。寧ろ、不良達からも煙たがられているのかもしれない。
「君は、独りが嫌だから独りの僕に近づいた……?」
「そんなわけあるか。性格悪いな、お前」
そう言って、笑って僕の脇腹を肘で小突く。こういうコミュニケーションの取り方はしたことがないので、反応に困る。
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