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【2巻サンプル】
僕には夢がある。
一度でいいからオメガになり、キース様に激しく抱いてもらう夢だ。
動物のように我を忘れたキース様に、愛してもらいたい。いつも寝台で余裕のある彼がそれをなくすさまを見てみたい、というのもあるが、一番はこれ以上ないほど求めてほしいと切望しているからだ。
【中略】
「なんだろう、今すぐお前が欲しくてしょうがない……」
僕の寝間着を脱がそうとキース様がたくし上げたとき、ハッとしたように呟いた。
「この感じは覚えがある。オメガの匂いだ。カイ、お前オメガだったのか……!」
ドン、と突き飛ばされてたたらを踏む。キース様の苦しそうな顔が見えて心が痛んだ。
(そんな顔をしないで下さい。これは、僕とあなたが幸せになるためなのに)
キース様が一歩下がり、顔を歪める。ひどくつらそうだ、抱きしめ慰めてあげたくなってしまう。
「早く俺から離れろ。このままだと、お前を壊すほどひどく抱いてしまう」
「そう……してください」
ハ、と浅い息をつき、寝間着の裾をぎゅっと掴む。
「え?」
「抱いて下さい、キース様。オメガを抱くとき、獣のようになると仰っていたのが忘れられなくて。僕も、一度でいいからそんなふうに抱かれたくて、オメガみたいになる薬を飲んだんです」
僕は今日のためにオメガ化の薬を求めたことを告白した。僕がどれほどアルファとしての彼を欲しがっているのか知ってもらいたかったからだ。
てっきり喜んでもらえると思っていたのに、キース様の顔はみるみるうちに真っ赤になってしまった。
「馬鹿か、お前は!」
飛んで来た怒声に首を竦める。まったくの予想外だった。ゆらり、とキース様の体から不機嫌な気配が立ち上り、そこでやっと僕は彼が怒っているのだと理解した。
「キ、キース様……」
「俺にとってオメガなんて、餌みたいなものだ。そんなものになりたいだと? ……いいだろう、望む通りにしてやろう」
皮肉めいた笑みを浮かべるキース様には、恐ろしさと美しさが同居していた。怖いはずなのに、体の奥に熾火がくすぶるように疼いた。
(僕、今からオメガみたいに抱かれるんだ……)
無言で近付いてきたかと思うと、むしり取るように寝間着を剥がされる。ドッと寝台に倒され、なにが起こったのか一瞬分からなかった。すぐに寝台に上がってきたキース様の影になり、思わず後退る。険しい表情は、いつも寝台で優しく蕩かしてくれる彼とは別人のようだった。
「俺がどんなふうにオメガを抱くのか、知りたかったと言ったな。その答えをやろう。ベータのお前にはつらいかもしれんな……」
両足を掴まれ、力任せに開かれる。ズボンの前立てを寛げたキース様のモノは、怒張という言葉が似つかわしいほどに張り詰めていた。
唾液で湿らせた指を突っ込まれ、彼が形だけ僕の後ろを慣らそうとしているのだと悟った。そこには愛情などない。僕の考えていた激しく愛されることと真逆の処理だった。
「あ、ぃや、いやですっ」
訴えているのに、キース様の表情は変わらない。おざなりに後孔をほぐしたあと、眉間に皺を寄せたまま、脚のあいだに入ってきた。
「あっ」
キース様の猛ったものが入ったとき、だれかが入るというより、侵入されていると思った。自分の領域を奪われているのだ。熱い凶器が、僕の奥深いところまで入り込み、そこを幾度も侵略する。
「ふっ、アァ……ッ!」
内臓が圧迫されて息が苦しい。鬼気迫る表情のキース様に覆いかぶさられ、視線が痛い。激しく腰が打ち付けられる。いつもと違う速さに体が付いていけない。
ふと動きが止まり、最奥に温かいものがじわりと広がる感触がした。――精を注がれている。
もう終わるのだと思うと少し安心した。これ以上、怒りに任せて抱かれるのは恐ろしい。
「き、キース様。もう……?」
「まだ赦してやれない。いい機会だ。俺のオメガの抱きかたを、体で覚えておくといい」
とてつもない量の精を撒かれたあとも、腰を振り続けられた。
喰い尽くされる。自然の世界で弱い鼠が豹や狼に狙いを定められたように、捕食されているのだと理解した。
ふと性器が引き抜かれ、解放されるのかと思ったら、今度はうつ伏せにされた。腰を両側から掴んで固定され、後孔を突かれる。
「あ、くるし……っ。や、やだっ……」
這いつくばって前に逃げようとするが引きもどされ、内腑を貫かれる。僕の尻孔は、きっと大量の精液が泡を立てていることだろう。パンパンと容赦なく打ち付けられる肉の音が、明かりを落とした寝室に響いている。
キース様の昏い笑い声が降ってくる。
「俺にめちゃくちゃにされたかったんだろう? カイ。犯してほしかったんだろう?」
「でも、こんなふうにじゃないんです。僕はただ」
「うるさいオメガだ。オメガは大人しく、されるままになっていればいいものを」
忌々しげに吐き捨てられ、愕然となった。
キース様にとって、長年お客として迎えていたオメガたちは憎悪の対象だったのだ。望んでいない性交に愛などない。彼は義務として与えられた仕事をこなしていたが、決してオメガたちを愛していたわけではなかったのだ。
スッ、と頭の後ろが寒くなる。僕はなんてことをしてしまったんだろう。
【サンプルここまで】
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