親友のはるか

1/1
前へ
/16ページ
次へ

親友のはるか

翌朝、舞が目覚めると夫は既に出勤していた。トーストとコーヒーの簡単な朝食を取りながら、『本当に仕事なのかな、、』と思わずつぶやいてしまう。 夜11時を過ぎた頃、『ただいまー。』夫が帰ってくる。『おかえり。遅くまでお疲れ様。』『うん。今日も疲れたよ。』そのわりにはやはり夫の表情は明るく、いきいきした様子だ。 『お仕事、大変なのね。』舞はそれとなく夫に探りを入れてみる。 『うん。佐藤部長肝いりの新規プロジェクトがスタートしてね。実はリーダーに指名されたんだ。』『まあ、すごいじゃない。』佐藤部長なら舞も会ったことがある。貫禄があり、厳しそうな見た目とは裏腹に物腰柔らかく、舞にも丁寧に挨拶してくれた。結婚式では快くスピーチも任されてくれたのだ。 夫は続けて話し出す。『実は初めの頃、チームワークがうまくいってなくてさ。』『リーダーなのに部下の心を上手くサポートしてやれなくて、すごく悩んだんだ。』『でも、もう大丈夫だから。あの時は心配かけてごめんな。』『そう。よかった。』『せっかく部長が僕を指名してくれたんだから頑張らないとな。』気持ちを込めて自分の思いを話す夫の様子はとても嘘をついているようには見えず、真摯に仕事に取り組む夫の姿勢を舞は誇らしく思った。 『ねえ、夕食はどうしてるの。ちゃんと食べられてる。』『ああ、弁当を買ってきたり、チームの皆で出前を頼むことが多いかな。』弁当や出前だけでは栄養のバランスがとれず、また身体を壊してしまうんではないか。舞は心配になって夫に提案する。『ねえ、よかったら私、夜食を用意するわよ。会社では軽く食べてもらって、家では遅くなっても胃に負担のかからない食事を出そうと思うんだけど。』 その瞬間。夫の顔色が変わった。そして一瞬の間のあと『いや、いいよ。ほら、打ち合わせがてらチームメンバーや取引先と食べることも多いし、せっっかく用意してもらっても食べられなかったら申し訳ないからさ。』慌てた様子で断りの言葉を口に出す。夫が一瞬見せた顔。それは驚いたというより、嘘がバレた時のような『まずい!』というような表情だった。『そう。』舞はそれ以上何も言う気になれず、短く返事をした。夫もそれ以上話さず、二人の間には沈黙が流れる。しばらくして『今夜はもう遅いから」寝よう』という言葉を機に二人は床についた。 翌朝、夫と向かい合って朝食を食べる。トーストと目玉焼き、サラダ、コーヒーといういつものメニューだ。昨夜のことがあり、気まずくて夫の顔をまっすぐに見られない。夫の方もきまりが悪いようで、どこか動作がぎこちない。いつもなら会話しながらの食卓が今朝はむなしくテレビのニュースだけが流れている。『じゃあ、いってくるよ。』『今日は定時あがりだから。舞のうまい夕飯楽しみにしてるよ。』いつもなら嬉しいはずの夫の言葉だが、今日は素直に喜べず、まいはだまってうなずいた。 『はあ。』今日はよりによって週3日の医療事務のパート仕事の日。昼休み、舞は思わずため息をついた。 昨夜のショックを引きずり仕事でミスを連発してしまったのだ。患者さんを怒らせ、見かねた先輩にフォローされる始末。『今日はどうしたの?らしくないじゃない。』と早めの休憩を勧められてしまった。落ち込んでいると、、、 『ブーブー』まいのラインにメッセージが届いた。誰だろう。まさか夫から残業の連絡だろうか、、不安な思いで画面を見ると、親友のはるかだった。 『久しぶり。最近どう?よかったら近々ランチでもどう?』(なんて良いタイミング!はるかにぜひ話を聞いてもらいたい。)『久しぶり!実は少し夫のことで少し悩んでて。はるか、よかったら相談に乗ってくれないかな。』そう返すと、すぐさま返事が帰ってきた。『もちろんだよ!早速だけど明日は空いてる?』明日はパーとも休みだし、願ってもない。その後のやりとりで、二人の行きつけのイタリアンで明日の昼11時に待ち合わせることになった。 その日、夫は予定通り定時帰宅した。はるかと約束ができたおかげか、舞は夫の前で自然に振る舞うことができた。舞の振る舞いにほっとした様子の夫も舞に話しかけ、二人は普段通り和やかな夜を過ごすことができた。 翌日、約束の5分前に待ち合わせのレストランに着くとはるかは既に来ていた。『久しぶり!今日はごめんね。ありがとう。』『久しぶりだね!全然だよ~。私も舞に会いたかったし。』店に入り、それぞれの注文を終えるとはるかが切り出した。『早速だけどまさしさんのことで悩んでるって、どうしたの?』『うん、、実はね。』舞は、最近夫の残業が増えたこと、帰宅した夫から甘酸っぱい香りがしてくること、初めは疲弊していた夫が最近はむしろ元気で生き生きしていること、そして、食事をめぐる昨夜のやりとりのこと、、はるかは舞の話をうなずきながら真剣に聞いてくれた。一通り話を聞き終えると、『まさしさんって上手に嘘がつけるタイプでないし、仕事の話はやっぱり本当なんじゃない?』『うん。私もそう思う。』『不自然なのは、舞が夜食を作るって言ったら時の反応よね。会食とかで必要ない日だけ断れば良いのに。』『そうなの。あんな風に焦って断るなんて、、』『ねえ、どう思う?不倫相手が居てご飯を食べさせてもらってるのかな』『う~ん。まさしさんに限ってそんなことないと思うけれど。』『ねえ、他に普段の様子でおかしな所はないの?』『うん、、特には。』『朝帰りとかも無いんだよね』『うん。それも無い』続けてはるかが少し聞きづらそうに尋ねる。『じゃあ、夜の生活は、、ちゃんとやってる?』『えっと、、休みの日には必ず』はるかはほっとした様子で『それなら少し様子を見てもいいんじゃない?』『もしかしたらまさしさんの方から話してくれるかもしれないし』『そうね、何かあるにしても、今は言えない理由があるのかもしれない。』はるかの言葉に舞も少し安心してそう答える。 別れ際『もしまた何か変わったことがあっら遠慮なく教えてね。』『私はいつだって舞の味方だからね。』と言ってくれる親友に舞は心から感謝した。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加