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【1日目】
4月1日。新社会人がデビューを果たす日。
空調設備を販売する村松重工でも、社員を前に支社長の大門が挨拶をする。
「えー、今年は5人の新入社員を迎えることになりましたー」
社長の右側にその新人が並んでいる、その後ろには各部の部長がいた。
月の最初と週の最初に行う朝礼の1シーンだ。
「みなさん、一日も早く仕事に慣れ、楽しくお仕事ができるようになってくださいねー」
丸く大きな頬もお腹を揺らして挨拶を済ませると「んじゃあとは各部で」と言い残して部屋を出て行った、別のフロアに設計部がある、そちらにも挨拶へ行かねばならない。
「営業部、戻れ」
部長の金原友弥が手を振りながら歩き出す、皆が集まっていたのは社長室に近い経理部だった。
集まっていた者がぞろぞろと営業部があるエリアに戻ると、金原が新人の男を隣に改めて声を上げる。
「営業部には長島光くんが来てくれた」
金原が言うと、長島は頭を下げた、皆の小さな拍手が起こる。
長島は頭を上げると端からその面々を見て行く。
(まあ空調の営業部だわな、男が多いな。女も数人いるが……)
それは半ばを過ぎてから増えた、設計係の女子とは長島は知らない。
(あーみんなババアだわ、って当たり前か、ここじゃ俺が一番下っ端だもんな。来年度以降を期待だな)
飛び切り年が行ってそうな女性がウインクでもしそうな笑顔で見つめるのをスルーする。
(とりあえずでも付き合いたくなるような女もいないな、やっぱもっと軽い職種を選べばよかったなあ。親が安心するかとそれなりにネームバリューのあるとこにしたけど、女いないの辛いなあ)
大学時代に交際していた女はいた、就職活動で疎遠になって恋人とは呼べなくなったが何故か体の関係は続いている。そう言った友達は他にも数人いるが、大学も卒業すると皆就職の準備が忙しいのか、なかなか会えずにいる。
せめて近場で、コンスタントに会える女がいたら嬉しいのは当然だ。
(まあ社内じゃなくていいから、近所の会社でいるかなあ。どこで逢える? ご飯の時とか? 通勤時はないなあ。まあクラブとかでも? 探して)
「2課に配属とする、月尾、指導を頼む」
金原に言われた男性が敬礼付きで返事をした、それだけでもフランクな職場だと判る。
「以上、今日も頑張ろう」
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