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金原は言って長島を2課の島へをいざなった。机が並ぶ島は三つ、ひとつは法人向けの設備を担当する1課、2課は個人向けだ。もうひとつの島は、営業部付きの設計を担う。
「長っち、よろしくねー」
月尾が明るく挨拶をする、5年先輩に当たる男だ。
「よろしくお願いします」
「まあ、まずは社内の案内でもしよか?」
月尾がその場から連れ出そうとすると、
「まあ、よかったら、私が案内しましょうか?」
先ほどウィンクでもしそうな笑顔でいた女が声をかける、庶務の石沢だった。
「あ、そだね、こういうのは庶務の方が向いてるかも」
あっさり引き渡した月尾に、長島は胸の中で悪態をつく。
(え、マジっすか、このババアとふたりきりは勘弁!)
「じゃあ、行きましょう!」
語尾にハートでもつきそうな言い方で言うと、僅かにスーツの袖をつまんで引っ張った。
「(いやいや、触るなだし!)ありがとうございます」
心とは裏腹に笑顔で言う自分の社交性を恨んだ。
「おトイレの場所は聞いたぁ? 真反対なのよぉ」
と一度廊下に出る。
「あ、社員証の使い方は聞いた? これをかざしてロック解除ね」
ドアの脇の機械を指さす。
「やってみる?」
いやらしい笑顔で聞いた、きっと自分の一番可愛い顔だと思っているに違いないと思うとそんなことはないと諫めたくなるが、あまり関わりたくない長島は笑顔を返す。
言われるがままに社員証を機械に押し当てた、ドアがカシャンと音を立てる。
「じょうず、じょうず~」
馬鹿にされていると思ったが、長島はあえて言わない。
そのまま左方向に歩き出す、真ん中にエレベーターシャフトと非常階段がある、それを取り囲むように廊下があり、その外側にオフィスとなっている。
「営業部は今出たドアを使ってねぇ、他のドアも開くけど、結構睨まれたりするからぁ。あ、正面玄関はドアを開けっぱなしにしてるけど、社員は出入り禁止ね」
途中にあった開け放たれたドアを指さし言う、その奥に社名が入った看板があった。
「他の会社も入ってるんだけどねぇ、あんまり人に会う事はないかなぁ。ここがトイレ、奥が給湯室」
短い廊下の左右にそれぞれ、男子トイレと女子トイレがあり、その突き当りに水道と、飲料の自動販売機やベンダーある。
「なにか飲む? 奢るわよ」
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