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たかだか100円程度の事だが、断ると機嫌を損ねそうなので長島はコーラを注文した。
「会社にも給茶機はあって、そこはタダよ。出るのはお湯と日本茶だけだけど。自分でスティックコーヒーとか持ってきたらいいわ」
「はい」
別にペットボトルを買うわ、と思いながらも言わない。
並んで紙コップの飲料をすする。
「あんのぅ。やっぱ俺が一番年下っすよね。俺より年下の人なんています?」
念のため確認した。
「うーん、そうねえ、派遣の人でも年上ばかりじゃないかしら。あなたより若い子なんて……あ、藤代奈々さんは同じ年かしら、設計係の子。短大出た後、一年専門学校行って去年入社してるから、学年はあなたと同じになるはず」
長島は内心ガッツポーズを決める。
(同じ年、ばっちこい! あとは顔とスタイルだね!)
「よかった、同じ年の人がいれば心強いです」
大学は通い始めた頃は、チヤホヤされるのがよくて年上でもよかったが、自分も二十歳を超えれば年上など年増にしか感じなくなってしまっている。
「私の頃は、高卒でもとったけど、今は大卒ばかりよねえ。それだけ進学率が高いんでしょうけど」
「私の頃はって、石沢さんもお若いのにそんな言い方」
もちろん、おべっかだ。だが石沢はとびきり嬉しそうににんまりと笑い、長島の腕をひっぱたいた。
「んもう! 長島君ったらお上手ね!」
「(リップサービスだろうよ)ええー? そんな言い方するような年ですか?」
「んもう! 私が何歳に見えてるのよ!」
「(45かなあ)30歳かな、俺より10くらい上に感じます」
石沢は「はあああ」と笑顔でため息を吐き、にこにこと上機嫌だ。
「んもう、やだ。そんなに若く見えちゃう? 若作りすぎかなぁー」
「(いえ、大丈夫ですよ)あれ、30代後半とかでした?」
「んもう! やだ!」
今度こそ思い切り腕をはたかれた、そんなことで喜ぶところがババアなんだとは言わない。
「んじゃ、部に戻りましょうか!」
空になった紙コップをゴミ箱に放り込み、ふたりは営業部へと戻る。コピー機の場所や応接ブースの場所などを説明し、部署に戻ると月尾がおかえりーと出迎えてくれる。石沢も金原に呼ばれて尻尾でも降りそうな勢いでそちらへ向かった。
「んとぉ。営業の仕事としては、午後、俺の担当のところへ行くからそれにつきあってもらおうかな」
「はい」
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